本研究の目的は、現在の日本農業のパレート改善的改革と自由化の意義を数量的に検討することである。特に農業部門に焦点を当てて、自由化による部門間の経済厚生の上昇と減少を、分配問題も視野に入れて数量的に測定し、昨今のTPPへの参加の是非にかかわる議論に、貢献 することである。平成26年度の研究実績は、1)多倍長計算と2)リンダールの以来の需要サイドに重きを置いた理論モデルの開発とその応用である。特に、1)の多倍長計算は、応用一般均衡の伝統的手法に従っての計算であるが、2)の理論モデルの開発とその応用の目的は、理論モデルを簡単化し、これまでの貿易モデルへの応用一般均衡的手法を更に簡単化しようというものである。 まず、多倍長計算に関しては、昨年完成した小規模応用一般均衡試作モデルを拡張して、多倍長60桁の有効桁数(通常のソフトウェアでは倍精度の15-16桁の有効桁数)で青森県の13部門応用一般均衡モデルを完成させた。この13部門モデルの応用として、青森県の将来にわたる人口減少問題の経済的効果を試算した。今後の課題として、日本全体の多部門モデルの多倍長での計算を試みる。 理論モデルの開発として、リカードーやヘクシャー・オリーンモデルのような供給サイドに重きを置いた比較優位の原則に対して、リンダール以来の需要サイドに重きを置いたモデルを開発した。このモデルは現代のグローバライズされた世界のような、バグワティの言うカレイドスコピックな比較優位の原則(Kaleidoscopic Comparative Advantage)が成立する現代の国際貿易パターンを説明出来るものである。また、この簡単なモデル(One Single Parameter General Equilibrium Model)の外生的パラメータは一つで、各国内の所得分配も考慮しており、応用一般均衡モデルとしても有用であると考える。今後の課題は、この理論モデルを基礎とした実証モデルの構築である。
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