本研究は、主に発展途上国の環境効率性について分析を行い、経済発展と環境パフォーマンスの関係を明らかにすることを目的としている。具体的には、中国を中心にしたマクロ及び産業別の時系列分析に基づいた国際比較と、中国を対象にした地域別のパネル・データ分析を行っている。28年度に実施した研究の内容及び成果の概略については以下の通りである。 28年度に実施した研究として第一に、東アジア諸国の工業部門を対象に、時系列データを使用して大気汚染の原因物質を考慮した環境効率性を推計し、環境パフォーマンスの国際比較を行っている。その結果、1980年代以降の中国では、生産効率が向上した以上に排出効率が悪化したために、日本や韓国よりも全体的にパフォーマンスが低くなっていることが判明した。これまでのマクロ分析の結果もふまえると、中国では汚染物質の排出効率の改善が急務であることが明確に示された。 しかし上述の研究を拡張し、1990年代以降の高・中低所得国24ヵ国の工業部門を対象にした第二の研究では、アジア諸国において中国のパフォーマンスが最も高く、インドネシアのそれが最も低いことが確認された。また、パネル・データ分析によって環境クズネッツ曲線仮説を検証した結果、N字型の曲線の存在が示され、経済発展によって環境パフォーマンスが改善する可能性が示唆された。 最後に第三の研究として、中国の工業部門を対象にして、地域別に地球温暖化と大気汚染の原因物質を考慮した環境効率性を推計し、汚染対策努力の効果についてパネル・データ分析を行っている。その結果、環境効率性と汚染対策努力の間にはU字型の関係があることが確認され、汚染対策努力が一定水準を超えれば、環境パフォーマンスは改善することが確認された。これまでの分析結果もふまえると、中国の工業部門においては汚染対策努力の効果が存在し、汚染対策の有効性が実証された。
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