研究の目的:本研究の目的は経済統合が、貧困、貿易赤字、財政赤字に悩む発展途上国経済に及ぼす影響を理論的、実証的に解明することである。理論分析では、関税削減の厚生経済学的評価を行うことを、実証分析ではミクロの家計調査データを用いて推計した家計部門を含む応用一般均衡モデルを構築することで、所得分配や貧困削減を含む経済統合の影響について数値的に評価することである。 研究計画実施計画:当初の実施計画は、初年度に理論モデルの基礎となる理論のサーベイを行い、次年度以降には分析の基礎となる理論モデルの検討と応用一般均衡モデルの構築、モデルの核のひとつとなる家計調査のマイクロデータの収集・整理及び分析を行い、最終年度は家計部門を細分化した発展途上国の応用一般均衡モデルを構築しシミュレーション分析を行うことであった。 最終年度に実施した研究:最終年度には、ネパールの家計部門を地域・所得階層別の24カテゴリーに細分化し家計調査の個票を集計し、生産部門を7部門、生産要素を3部門(土地・労働・資本)とする応用一般均衡モデルを構築した。第一段階のシミュレーションとして、懸案となっている農地改革の分析を行い、当該政策が所得分配と貧困問題を改善することを明らかにした。当初計画では関税削減の分析と経済統合への含意を探ることが主目的であったが、分析途中で社会会計表の再推計が必要であることが明らかとなり、現在再推計中である。 研究期間全体を通じて実施した研究の成果:貿易赤字・財政赤字を特徴とする発展途上国の地域経済統合では、関税削減による関税収入の減少を埋め合わせる必要がある。税体系に依存して結論は変わるが、関税率を削減し他の税率を比例的に変化させるモデルにおいては、必ずしも厚生水準が向上するわけではないことが明らかとなった。発展途上国の地域経済統合を考える上での含意は大きいものと考えられる。
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