平成27年度は、主としてデンマークの公契約における賃金条項と最低賃金の設定のあり方について、現地訪問によるヒヤリング調査を含む調査研究を行った。本調査研究により、1.デンマークは日本と異なり、最低賃金を定める法律は存在せず、使用者団体と労働者組合との間で締結される労働協約(Collective Agreement)がデンマークの労働市場において非常に重要な役割を果たしている、2.最低賃金もこの労働協約において定められる、3.デンマークは1955年にILO条約第94号「公契約における労働条項に関する条約」(日本は未批准)に批准している、4.公契約に対しても、労働協約が適用されてきたため、長い間、公契約における労働条項は重視されてこなかった、5.ただし、近年、東ヨーロッパ諸国からの労働者、企業がデンマークにおいて仕事を行うようになり、しかも労働協約を結ばないケースも出てきており、これが「ソーシャル・ダンピング」として社会問題化している、6.こうしたソーシャル・ダンピング対策の一つとして、近年ILO条約第94号に基づく公契約における労働条項(賃金条項を含む)適用が広まっている、7.特に地方自治体は、中央政府と異なり、労働条項の適用は義務ではないものの、取り入れる自治体が増えている、といったことを明らかにすることができた。 研究期間全体を通じて明らかとなったことは次の通りである。アメリカでは、1990年代以降、公契約のみに連邦政府の最低賃金を上回る生活賃金を設定する動きが広まっていたが、近年は連邦政府の最低賃金を大幅に上回る市独自の一律最低賃金を設定する動きが広まりつつある。ドイツ、イギリス、デンマークにおいては、それぞれの国において法定最低賃金の存在の有無、労働協約適用のあり方に違いがあるものの、基本的に民間契約、公契約において適用される最低賃金額に差はない。
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