研究課題/領域番号 |
24530345
|
研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
中村 和之 富山大学, 経済学部, 教授 (60262490)
|
キーワード | 所得分布 / 社会厚生 / ローレンツ支配基準 / 地域間格差 |
研究概要 |
本年度は以下の3点について研究を進めた. 第一に,中国における所得,環境,医療の地域間格差を一般化ローレンツ支配基準を複数属性に拡張した基準を用いて評価した.本研究は前年度に予備的な結果を得ていたが,解決すべき課題として残されていた中国の地級市における常住人口の把握について工夫を施した.分析の結果,近年では環境水準の地域間格差が全体でみた社会厚生を改善するうえでネックとなっていることが示唆された.この結果を国際的な研究集会で発表した. 第二に,生産要素価格の国家間あるいは地域間での均等化を主張する要素価格均等化定理の成否を検証するための新たな手法を提案した.生産要素が2種類の場合,レンズ条件と呼ばれる条件が要素価格均等化定理が成り立つ必要十分条件であることが明らかにされており,この条件を生産要素の地域間偏在を分析するために用いた研究も多い.本研究では生産要素の数に関わらず要素均等化定理の成立を検証できる手法を提案した.この研究の結果を学術雑誌に投稿した. 第三に,世帯構成員数の相違等によって世帯の所得に対するニーズが異なるときに社会厚生を評価するための手法を研究した.よく知られた逐次的一般化ローレンツ支配基準をもとにして,先行研究と同様の条件の下で若干の修正を施した一般化ローレンツ曲線の逐次的比較によって社会厚生の比較が可能であることを示した.本研究で示された手法は,先行研究で示された所得分布関数の直接的な比較よりも一般化ローレンツ曲線を使う点で簡便である. この他,前年度より着手した研究のうち,逐次的一般化ローレンツ支配基準の拡張についても引き続き研究した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の主な目的である複数の属性を考慮した社会厚生の評価について,(1)一般化ローレンツ支配基準の複数属性への拡張は理論的な整理も終了しており,実際の数量分析への応用上の問題を検討する段階に到達している,(2)逐次的一般化ローレンツ支配基準の複数属性への拡張についても主要な結果はすでに得られている,(3)当初,平成26年度の完成を目指していた生産要素の分布と要素価格均等化命題の関連については本年度にひとまず研究を完成させ,投稿した学術雑誌より掲載許可の判断を受けていること,(4)逐次的一般化ローレンツ支配基準の拡張を研究する過程で当初計画していなかった新たな問題を発見できたこと,などを踏まえて上記の評価に至った.
|
今後の研究の推進方策 |
本年度は前年度に着手した研究の完成を目指すとともに,本研究で確立した手法を再分配政策の評価への応用する中で新たな課題の発見に努める.
|
次年度の研究費の使用計画 |
当初,研究成果をヨーロッパもしくは北米で開催される国際学会で発表することを予定していたが,(1)北米・環太平洋地域の国際学会が前年度末に東京で開催され,そこでの研究発表が許可されたこと,(2)研究の分析対象地域である中国で開催された国際学会での発表が許可され,これを他の経費で支弁できたこと,等の理由で使用計画と実額の差異が生じた. 関連する分野の図書や統計の購入に充当する他,研究遂行上必要となる備品の購入に充てる.
|