研究課題/領域番号 |
24530346
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
小野 哲生 大阪大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (50305661)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 社会保障 / 多数決投票 / 世帯構成 / 借入制約 / 派生年金受給権利 |
研究概要 |
年金に代表される老年期の社会保障給付は,一般に若年世代から老年世代への所得移転であり,世代間利害対立をもたらす.この問題を投票モデルで描写したのがBrowning (1975)およびBoadway and Wildasin (1989)である.また社会保障給付には,自己負担に応じた給付(ビスマルク・タイプ)と,負担とは関係ない一定額の給付(ビバレッジ・タイプ)があり,後者は世代内での高所得者から低所得者への所得移転をもたらす.低所得者と高所得者の世代内利害対立にも注目することで,世代内での所得分布が,世代間所得移転の政治決定に重要な影響をもたらすことが明らかにされてきた. このような社会保障の政治経済研究において近年,世帯構成を考慮した分析に注目が集まってきた.これまでの分析では,家計は代表的な個人で形成されていると仮定してきたが,実際の世帯構成に注目すると,家計は未婚世帯と既婚世帯に分かれ,また,既婚世帯は,共働きと片働きに分けられる.片働き世帯では夫が社会保険料を支払うが,給付は夫と妻が受け取ることになる.つまり,妻は派生する年金受給権を保有しており,未婚世帯や共働き世帯から,片働き世帯への世代内所得移転が発生する. 2012年度の研究では,世帯構成を考慮したモデルに借入制約を導入し,このモデルを用いて,相対的に所得の低い片働き世帯が借入制約に直面した場合,片働き世帯の社会保障給付に対する選好がどのように変わるかを分析した.分析の結果,以下のことが判明した.第1に,異時点間の代替の弾力性が低い場合,借入制約に直面した片働き家計は,共働き家計よりも軽い社会保障負担(低い給付水準)を選好する.第2に,男女間の賃金格差の減少,派生年金権利の減額,共働き家計の割合の増加という3つの構造変化に注目し,各変化と社会保障負担の間に逆U字型の関係が存在することを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の研究計画に即した内容の研究を行い,ディスカッションペーパーとして研究成果を公表したため.
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究については,当初の研究から若干の変更を行ったうえで,進めていく予定である.当初の予定では,社会保障負担の投票において,家計の意思決定に関する近視眼性に注目して分析していく予定であった.経済的な意思決定における近視眼性とは,今どれだけ消費し,どれだけを将来退職したときの消費のために貯蓄するか,という意思決定において,将来の消費を十分考慮せず,現在の消費に所得の大部分を充ててしまうことである.また,政治的な意思決定における近視眼性とは,将来の退職した時に得られる社会保障給付を十分考慮せず,現在の社会保障負担を過大に評価してしまうことである. このような経済的・政治的意思決定における近視眼性をモデル化する方法はいくつかある.当初の予定では,近視眼的な家計とそうでない家計が併存する経済を想定してモデル分析を行う予定であった.これに対して変更後の研究では,近視眼性を表すパラメータとして寿命の不確実性を取り扱うことにする.すなわち,将来長生きすると期待する個人ほど,将来の消費や社会保障給付に高いウェイトを置くことになる.このモデル化によって,寿命が長くなることで人々の意思決定における近視眼性が低下し,それが消費・貯蓄の経済行動や,社会保障に対する投票行動にどのような影響をもたらすかを明らかにすることができる.
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次年度の研究費の使用計画 |
研究を進めていくうえで必要に応じて研究費を執行したため,当初の見込み額と執行額は異なったが,研究計画に大きな変更はなく,前年度の研究費も含め,当初予定通りの計画を進めていく.
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