研究課題/領域番号 |
24530347
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
太田 亘 大阪大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (20293681)
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キーワード | マーケットマクロストラクチャー |
研究概要 |
本研究の目的は、証券取引所の取引システム高速化により始値形成に変化が生じるかを検証することにある.取引システム高速化により高頻度取引業者等が活発な取引参加をすることで価格形成が歪むのではないか、という懸念があり、高速化と日中取引および日中の流動性に関する分析が行われている.しかし、取引システム高速化が取引開始時の価格形成にどのような影響を与えるかについての分析はなされておらず、これを分析する点が本研究の特徴の一つとなっている.具体的には、東京証券取引所の2010年1月における取引システム高速化の前後1年間について、1日の取引開始前における投資家の発注行動および始値形成を分析した.前年までの研究により、高速化後、特に大型株で取引開始直前に活発に発注が行われるようになるとともに、寄前気配の変動がより大きくなっていることがわかった.本年の分析では、高速化前後1年ではなく四半期ごとのより詳細な分析を行った.その結果、情報投資家が高速化後に発注タイミングを取引開始直前に動かし、それと同時に始値の情報効率性が低下した可能性があるものの、変化は顕著ではない、変化は高速化の前3ヶ月から観察されるとともに半年経過以降は高速化前の水準に戻っている、という推計結果が得られた.高速化により恒常的な変化が発生しているわけではないため、変化の原因は必ずしも高速化ではない可能性がある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究2年目が終了したが、2年目は前年度に整備したデータを利用し、各種分析を行った.主たる分析手法であるunbiasedness regressionは単回帰分析であるが、価格制限ルールの影響をコントロールするため、市場全体の動きを表す指標を作成したうえで銘柄固有要因を抽出した.さらに価格制限ルールの制約を受けているかいないかについてダミー変数を作成し、そのダミー変数と銘柄固有の収益率とのクロス項をunbiasedness regressionの説明変数に追加して推計を行った.それにより、高速化の影響についてより適切な分析が可能となった.また、Amihud and Mendelson (1991, Journal of Finance)などが用いている分散比による分析、Barclay and Warner (1993, Journal of Financial Economics)などが用いているWeighted Price Contributionによる分析を行い、unbiased regressionの推計結果と整合的な結果が得られるかチェックした.分散比では整合的な結果が得られたが、Weighted Price Contributionでは整合的な結果が得られなかった.これは結果に頑健性がないというよりも、Weighted Price Contributionが理論的に導かれた指標ではなく、価格形成の分析には必ずしも適していないためであると考えられる.取引開始前の大口注文の発注とキャンセルが価格形成にどのような影響を与えているかについても分析し、明確な影響はない、という結果が得られた.
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今後の研究の推進方策 |
本年度が最終年度となるが、分析対象を広げるとともに、結果の頑健性について検討する予定である.これまでの研究では1日の最初の取引における価格形成の分析をしてきた.分析対象としている東京証券取引所は、昼休みがあるため、午後にも午前開始時と同様の手続きにより取引が開始される.そこで、午後の取引開始における高速化の影響を分析する.午前の取引終了からの経過時間が短いため、投資家間の情報の非対称性の程度が低く、情報投資家の発注の影響が非常に小さく、それによって午後には午前とは異なる価格形成が行われる可能性がある.一方、日中の取引量は取引開始時と終了時に集中し、午後開始時の取引量は、午前開始時の取引量に比べて少ない.そのため、情報投資家の発注は少ないものの、その他の投資家の発注も少なく、午後開始時において相対的に情報投資家の影響が強くなる可能性もある.いずれの場合においても、発注行動および価格形成を分析することにより、高速化の影響をより詳細に分析することが可能となる.また、東京証券取引所は高速化と同時に価格制限ルールを緩和しており、価格制限ルールの影響を取り除いたうえで高速化の影響を評価することが重要である.午後開始時の取引は午前開始時の取引に比べ前の取引からの価格変化が小さく、価格制限ルールの影響を受けにくい.そのため、午後取引開始時の分析により、高速化のより直接的な影響を評価できると期待される.
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