本研究の目的は、証券取引所の取引システム高速化により始値形成に変化が生じるかを検証することにある。取引システム高速化により高頻度取引業者等が活発な取引参加をすることで価格形成が歪むのではないか、という懸念があり、高速化と日中取引および日中の流動性に関する分析が行われている。しかし、取引システム高速化が取引開始時の価格形成にどのような影響を与えるかについての分析はなされておらず、これを分析する点が本研究の特徴の一つとなっている。具体的には、東京証券取引所の2010年1月における取引システム高速化の前後1年間について、1日の取引開始前における投資家の発注行動および始値形成を分析した。前年までの研究により、高速化により、大型株の前場において始値の情報効率性が低下したが、これは一時的であることがわかった。本年の研究では、対象を後場の始値形成に広げた。後場のはじめは、午前の取引終了からの経過時間が短いため、投資家間の情報の非対称性の程度が低く情報投資家の発注は少ないと考えられるが、その他の投資家の発注も少なく、後場開始時において相対的に情報投資家の影響が強くなることが確認された。但し、高速化前後の始値形成の変化は前場とほぼ同様であり、前年の分析結果の頑健性が確認された。また大口注文の発注キャンセルの効果について分析し、高速化後に発注キャンセルが始値形成を歪めるようになったとはいえない、という推計結果が得られた。
|