本研究では、日本の地方基幹税を対象にして税収の安定性を分析し、以下のような成果を得た。1、地方税の税収の安定性と伸張性をそれぞれ税収の短期的所得弾力性と長期的所得弾力性によって推計し、(1)地方法人課税は税収の安定性が低い、(2)固定資産税は税収の安定性が高い、(3)固定資産税は税収の伸張性が高いなどの結果を示した。2、地方税収の安定性と伸張性の関係を相関係数によって推計し、税収の安定性と伸張性の間にトレード・オフの関係があることを示した。3、個人住民税と法人住民税を対象にして「国税からの影響遮断」をグレンジャーの因果性テストによって検証することで市町村民税所得割において所得税からの一方的なグレンジャー因果性が存在することを確認し、市町村民税所得割は国税からの影響遮断が機能していないことなどを示した。4、宅地に対する固定資産税の実効税率の変化の要因の分析と、宅地資産額に対する固定資産税収の弾力性の推計によって、(1)近年における宅地に対する固定資産税の実効税率の上昇は、税支払額の増加よりも、宅地価格の下落が要因であること、(2)税支払額の増加が大きくないのは負担調整措置によって税支払額の増加が抑制されていることに理由があり、同時にこれは税収の安定性にも寄与していることを示した。5、固定資産税における課税標準の選択論に税収の安定性の観点からアプローチし、課税標準の間にあるのは優劣ではなく性質の違いであると考え、固定資産税と香港レイトの制度比較分析を通じて、固定資産税では資本価格が望ましく、香港レイトでは賃貸価格が望ましいことを示した。
|