1.研究期間中2014年の公的年金財政検証を踏まえ、負債のリターンを物価上昇率とする場合だけでなく、賃金上昇率の変動をヘッジするポートフォリオの検討を行った。その際にCampbell&Viceira(2002)以降、実務でも用いられるようになったベクトル自己回帰モデル(VAR)を用いた、多期間にわたる資産・負債のリスク・リターンの構造変化の分析に力を入れた。 2.まず、臼杵・三澤(2015)では、リターン目標を名目賃金上昇率(負債リターン)+αとし、構造VARを用いて、A.負債との下方共分散を最小化、B.目標リターンからの2次の下方部分積率を最小化、するポートフォリオの構成比(短期資産・債券・株式の割合)を1年~30年の投資期間において検証した。また、Miyao(2000)らにならい、VAR係数から1994年3Qまでとそれ以降の間に構造変化があったことを明らかにした。ポートフォリオ(資産配分)を検証した結果、株式への配分比が20%を超えるのは前半の分散共分散構造とリターンを前提とし、比較的αの小さくかつ10年以上の長期にわたる2次の下方部分積率を最小化するポートフォリオに限られた。 3.また、臼杵(2015)では、財政検証及び年金積立金管理運用独立行政法人の基本ポートフォリオ改定を受け、公的年金財政の資産負債管理(ALM)を定式化し、株式などのリスク資産への配分を増やした場合に年金給付の確率分布に与える影響を分析する手法を明らかにした。 4.これらの結果を学会発表や内外での招待講演の場で発表した他、2.の成果を発展させ、国内債券・株式だけでなく外国債券や外国株式を加え、さらに期待リターンをより現実的な数値に修正したポートフォリオについて、物価及び賃金+αに対する、下方部分積率を最小化するポートフォリオリターン構成比を検証した論文を投稿、査読中である。
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