研究課題/領域番号 |
24530358
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
亀坂 安紀子 青山学院大学, 経営学部, 教授 (70276666)
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研究分担者 |
高橋 泰城 北海道大学, 文学研究科, 准教授 (60374170)
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キーワード | ファイナンス / 行動ファイナンス / 行動経済学 / 幸福度 |
研究概要 |
本研究課題は、ファイナンスや経済分野の分析に心理学の研究成果を取り入れることを目的としており、この研究目的に沿って当初から予定していた研究とその応用研究を実施した。当該年度に進めた研究のうち、特に東日本大震災に関連する分析は、社会からも大きな注目を集めた。研究成果は、専門雑誌への掲載にとどまらず、各種研修会、セミナー等で報告の機会が提供された。以下、本研究課題に関して、当該年度中に得られた成果の概要を個別のテーマごとに紹介する。 本研究課題では、行動ファイナンス分野で成果を上げることをひとつの目標としており、当該年度もファイナンス実験を実施するとともに、既存のデータを分析して、投資家行動について、あらたな分析結果を専門英文雑誌などに公表した。その一つが、欧米の研究者の間でも知名度が高い Pacific-Basin Finance Journal に掲載された東日本大震災前後の投資家行動に関する分析結果である。この論文は、米国のMBA向けのテキスト執筆者であるJohn Nofsinger 氏との共著のかたちで執筆した。この関連分析を行うことについて、日本金融学会からも依頼があり、追加分析も含めた結果が日本金融学会発行雑誌『金融経済研究』に掲載された。 幸福度に関する分析でも、東日本大震災に関するものは社会からの注目度が高く、『働き方と幸福感のダイナミズム』という書名の図書に収録された。また、教育が人々の幸福度や満足度に与える影響についての分析について、世界的に有名な研究者であるAndrew Clark 氏との共著のかたちで進めることができた。Andrew Clark 氏との共同研究で得られた成果の一部については、すでに日本経済学会の大会などで公表している。 学会や専門雑誌以外でも、JICAで開催された幸福度セミナーなどで広く研究成果を公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初予定していた研究は、おおよそ計画通り進めることができており、その関連研究が予想以上に進展しており、かつ、研究者だけでなく社会からも注目を集めているように感じている。特に東日本大震災前後の投資家行動のありかたや、人々の価値観、幸福に関する考え方の変化の分析は、実際のマーケットの取引データやアンケート調査の裏付けがあることから、信頼性の高い研究結果として実社会からも受け入れられているようである。研究者として負うべき責任を重く感じているが、様々な研究者や実社会で活躍する人々と交流する機会が増え、当初予定していなかった研究報告の機会が与えられている。以下、いくつかの予定外の成果などについて、具体的に記す。 研究代表者の亀坂が単独で行っていた日本の投資家行動の研究については、研究実績の概要で記したとおり、海外の有名な研究者と共同の形でさらに分析を進め、有名な英文雑誌に公表するに至った。また、日本金融学会からも、関連原稿執筆の依頼があり、阪神大震災時と比較した分析を行った。投資家行動については、日本証券業協会が実施した大規模調査の結果について、学会で報告する機会があった。これらはいずれも、当初の計画にはなかった関連研究である。 幸福度についての分析も、当初予定していた以上に進めることができた。結婚・出産などの人生のイベントが、人々の幸福度や夫婦満足度、ストレス度などに与える影響を分析する機会が得られ、その成果の一部は学会などですでに公表している。また、幸福度調査で有名なブータンの王立研究所長が来日した際には、研究代表者の亀坂は、JICAで「日本の幸福度調査の現状」というタイトルで、講演をする機会が得られた。このほかにも、日本で幸福度調査を進めている荒川区長とともに、研究代表者の亀坂はシンポジストとして日本の幸福度調査について報告する機会を得るなど、多数の研究報告の機会を得た。
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今後の研究の推進方策 |
研究開始時点で予定していたファイナンス実験の成果については、経済系の比較的ランクが高い雑誌への掲載を目標としているため、公刊までに時間がかかっているが、引き続き公刊まで、論文の修正を続けたい。 研究代表者の亀坂は、投資家行動の研究に関連して、昨年ノーベル経済学賞を受賞したロバートシラー教授と共同で平成26年8月より日本での調査を行うこととなった。このため平成26年度以降は、ファイナンス分野では、この調査に研究の重点を置きたいと考えている。 幸福度の研究についても、研究開始時点で計画していたAndrew Clark 氏との所得に関する分析、日米の幸福度の決定要因の違いに関する分析、日次幸福度の分析、年齢と幸福度の分析を引き続き進める予定であり、それらの成果のいくつかは、1,2年以内に専門雑誌に投稿したり、様々な方法で公表したりする予定である。 幸福度の分析に関連して、ルクセンブルグ大学のConchita D'Ambrosio 氏から、貧困の問題への応用分析を共同で進める研究案などを新たに頂いている。また、幸福度が低い人々をどのように救済できるかといったことの議論も必要であるため、内閣府で幸福度調査に携わった方々や、精神科医の方々と共同で希死念慮の分析もはじめている。今後は、そのような実社会で要請の高い応用分析も進める予定であり、学会だけでなく、一般雑誌やシンポジウム等でも報告してゆきたいと考えている。 平成26年9月には、中国で開催される予定の政治家、ビジネス界のリーダー、海外の第一線で活躍する研究者などの集うコンファレンスにスピーカーとして招かれており、そのような場でも研究成果について、情報発信してゆきたい。経済セミナーなどから、これから研究を志そうとする学生を対象とした原稿執筆の依頼もあるため、入門者に向けた情報提供も行ってゆきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究を計画した当初は、ファイナンス実験でできるだけ多くの生理指標を収集するとしていたが、パイロットテストを行った結果、統計的な分析を行って意味のある結果を導きだせそうな生理指標がなかなか見つからず、物品費への支出を大幅にカットした。また、計画段階では、アルバイト代を直接被験者となってもらう学生に支払って実験を行うことを考えていたが、手続き上の問題から、実際には実験中の行動に応じて直ちに参加者に謝金を支払うことが困難であった。このため、共同研究者が米国で獲得した研究費により実験経費の一部を負担してもらうこととなった。実験や調査の一部を調査会社に委託することも検討したが、その場合はまとまった金額の支払いが必要であったために、最終年度まで、なるべく多くの資金を繰り越した。 調査会社に委託する形で収集できるデータの収集を平成26年4月に実施することについて、平成25年度中に計画し調査会社と打合せも行ったため、繰越額の多くは平成26年度のかなり早い時期に支出される予定である。 これまで海外の大学に所属する共同研究者の招聘は、研究代表者の亀坂が主として担当し、支出も行ってきたが、研究分担者にも招聘を担当してもらうなどの見直しを行うことで、今後の研究費の使用について調整をはかりたい。 最終年度である平成26年度は、応募段階から研究費の申請額を少なくしていたため、繰越額があっても実際に研究を実施するうえでは研究費が不足することが見込まれる。当初は予定していなかった応用研究がいくつか追加されているためである。
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