研究課題/領域番号 |
24530364
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 和歌山大学 |
研究代表者 |
野田 顕彦 和歌山大学, 経済学部, 講師 (80610112)
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研究分担者 |
井奥 成彦 慶應義塾大学, 文学部, 教授 (60184371)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ファイナンス / 計量経済学 / 日本経済史 / 市場効率性 / 東京米穀商品取引所 / 東京深川市場 / 米騒動 |
研究概要 |
まず,研究代表者である野田と連携研究者である伊藤は,本研究課題の分析を進めていくための時変計量経済モデルの開発を中心に行った.具体的には,時系列解析における既存の自己回帰モデルやベクトル自己回帰モデルを拡張し,頻度論統計学に基づいた時変計量経済モデルを開発すると同時にそれらモデルの漸近特性について理論的検証を行った. また,頻度論統計学に基づいた時変計量経済モデルを構築したことで,(ベイズ統計学に基づいた既存の手法を用いた場合とは大きく異なり)単に恣意的なパラメータの事前分布に依存することなく分析が可能になっただけではなく,多くの既存の検定統計量(F統計量など)が利用可能となることも示された.以上で開発した手法を,戦前期東京市場における米穀取引データ(東京米穀商品取引所定期取引価格(当月限)・東京深川市場正米価格)に適用し,現物価格および先物価格におけるFama(1970, Journal of Finance)の意味での市場効率性が時間を通じてどのように変化しているかを計測した。 そして,上記分析結果について、記述史料による経済史的考察を進めた.今回の分析結果のなかで重要視すべきは,1918年米騒動の前後に市場効率性が急速に低下した点である.研究史においても,1910年代後半の定期米相場は「狂騰相場」であり,それへの対応として農商務省は1916年以降に暴利取締令発布に代表される取引所取引への取締・介入を強化したことが指摘されてきた. これらの史実を踏まえると,市場効率性の低下は介入政策の強化と市場の混乱とによる複合的な要因によりもたらされたと捉えるべきであろう.以上の要因を解明できれば,近年において市場の強靱性を強調する潮流にある経済史研究に対しても意義深い問題提起が可能となろう.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
頻度論統計学に基づく時変計量経済モデルの開発を担当する野田と伊藤は,第一に,これまでに行った共同研究の成果を踏まえて時変自己回帰モデルおよび時変ベクトル自己回帰モデルの漸近特性について検証した.具体的には,上記の時変計量経済モデルにおけるパラメータの識別可能性について数理的に厳密な証明を行った.第二に,先に開発した時変計量経済モデルで推定されたパラメータに対応する検定統計量を提案した.具体的には,推定された時変パラメータが統計的にゼロと有意に異なるかどうかを検証するため, 単にF統計量を用いた検定を行うだけではなく,モンテカルロ標本を生成して統計的検定を行う手順について新たに提案した.以上のように,本研究課題における分析手法の構築を完了できた点において,現在までの達成度は概ね良好であると判断できる. 分析結果の経済史的考察を担当する井奥と前田は,第一に,先行研究のサーベイを行った.但し,前項「研究実績の概要」で考察の重要性を強調した1910年代後半には,他の商品取引や株式取引にでも深刻な混乱が生じていたことが既往研究により指摘されている.そのため,本研究課題と直接的に関連する流通史,農業史のみならず,金融史など近接領域も含むサーベイを行った.第二に,米穀取引所が公刊した基礎的な史資料(例えば,指田義雄『米穀取引に就て』東京米穀商品取引所,1919年など)を中心に,1910年代後半に焦点を絞った考察を行う上で必要な史資料類の収集を進めた.以上2点の基礎的作業を完了できた点からも,現在までの達成度は概ね良好であると判断している.
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今後の研究の推進方策 |
まず,野田と伊藤は,前項「現在までの達成度」にも示したように,昨年度に行った本研究課題における分析手法の構築を踏まえ,井奥と前田が昨年度に作成した東京市場のデータを用いてより詳細な計量分析を行う.そして、井奥・前田を交えてそうした時変構造が生じた原因について,ファイナンスならびに経済史の観点から解釈を行う.また,こうした解釈を論文としてまとめ,海外および国内の学会で報告したうえで,適切な海外の学術専門雑誌に投稿する予定である. 一方,井奥と前田は,前項「現在までの達成度」に示した昨年度における経済史的考察に向けた基礎的作業を踏まえ,東京市場を事例とした分析結果の解釈に取り組む.加えて,本年度は戦前期日本内地における米穀定期取引の中心であった大阪堂島米穀取引所についても分析を始めると共に,近畿圏における米穀現物取引データの収集にも着手する.現在のところ,米穀現物取引データは,大阪市内市中価格、神戸市内市中価格の双方もしくは一方を収集することを計画し,選定に向けた作業を進めている.このように,本年度は東京市場のみならず近畿圏にも目を向けることにより,事例の豊富化も進めていく予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
野田は,前項「今後の研究の推進方策」でも述べたように,東京市場の米穀価格の市場効率性についての分析結果をまとめた論文を海外の学会で報告するための国外旅費に250千円,本研究課題の分析手法をより精緻化するため,連携研究者である伊藤との打ち合わせを東京で行うための旅費として600千円を計上している.また,分析を進める上で必要不可欠となる専門書の購入に25千円を計上している. 前田は,前項「今後の研究の推進方策」に示した分析結果の解釈を行うために必要な史資料類の購入に50千円,夏季に和歌山で開催が予定されている研究会へ出席するための旅費として80千円,収集した史料の製本・印刷代として20千円を使用する計画である.なお,和歌山における研究会へ出席する際には,同時に主に大阪市において史料収集を実施する予定である.そのために必要な経費が旅費80千円には含まれ,またの製本・印刷代20千円には史料収集に要するコピー代が含まれている. 井奥は,和歌山での夏季研究会へ出席するための旅費として60千円を計上した.なお,研究については前田と密に連絡を取りながら進めることとしているが,その他の費用は今年度においては計上していない.
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