研究課題/領域番号 |
24530364
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研究機関 | 和歌山大学 |
研究代表者 |
野田 顕彦 和歌山大学, 経済学部, 講師 (80610112)
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研究分担者 |
井奥 成彦 慶應義塾大学, 文学部, 教授 (60184371)
前田 廉孝 西南学院大学, 経済学部, 講師 (90708398)
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キーワード | ファイナンス / 計量経済学 / 日本経済史 / 市場効率性 / 東京米穀商品取引所 / 大阪堂島米穀取引所 / 東京深川正米市場 / 植民地米 |
研究概要 |
まず,研究代表者である野田と連携研究者である伊藤は,研究分担者である井奥と前田が昨年度に作成した戦前期東京・大阪市場における米穀取引に関する価格データを用いた計量分析を行った.具体的には,(1) 戦前期東京米穀商品取引所および大阪堂島米穀取引所における定期米取引価格について,昨年度までに構築した時変計量経済モデルを用いて結合された市場効率性を計測した,(2) 昨年度までに構築した時変計量経済モデルを,Wilkinson-Rogers formで書き下すことのできる,より一般的な統計分析の枠組みに拡張すると同時に,拡張されたより一般的な時変計量経済モデルを用いて,戦前期東京・大阪市場において正米取引価格を形成するために定期米取引価格が効率的に価格付けられていたかどうかについて検証した. 上記2つの分析について研究分担者である井奥と前田は,それぞれ平成24年度から継続的に収集を進めてきた記述史料に基づき,経済史的考察を進めた.第1の分析については,政府の市場に対する政策的介入に着目し,米穀政策の実施は先物市場における情報効率性を低下させていたことを明らかにした.そして,第2の分析については,先物価格の現物価格に対する指標価格形成機能が通時的に変化した要因として,市場における輸移入米流通量の推移に着目した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
時変計量経済モデルの開発および同モデルを用いた計量分析を担当する野田と伊藤は,前項「研究実績の概要」に示した2点についての分析を進めた.第1に,戦前期東京米穀商品取引所および大阪堂島米穀取引所における定期米取引価格の結合された市場効率性を計測した.具体的には,戦前期東京・大阪の定期米取引市場における効率性が時間を通じて大きく変動していたことを示した.第2に,先に開発した時変計量経済モデルをより一般的なWilkinson-Rogers formの枠組みに理論的に拡張すると同時に,戦前期東京・大阪市場において正米取引価格を形成するために定期米取引価格が効率的に価格付けられていたかどうかについて検証した.具体的には,定期米取引の期限によっては効率的な価格付けがなされてきたかどうかが大きく異なること,そして,定期米が効率的に価格付けられるかどうかは時間を通じて変動することなどを明らかにした.以上のように,本研究課題の中心的な研究となりうる分析を完了できた点において,現在までの達成度は概ね良好であると判断できる. 分析結果の経済史的考察を担当する井奥と前田は,前項「研究実績の概要」に示した2点の解釈を進めた.第1は戦前期米穀先物市場の情報効率性へ対する米価政策の影響について,第2は戦前期米穀先物価格の指標価格形成機能へ対する米穀輸移入量の変化による影響についてである.これら2点の考察より現在までに,戦前期米穀先物市場が有効に機能するための条件が部分的に解明された.すなわち,第1に米穀政策に基づく市場への政策的介入が実施されないこと,第2に現物市場において流通している米穀と品質的に同質な標準品によって先物市場の取引が実行されていることである.
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今後の研究の推進方策 |
まず,野田と伊藤は,前項「現在までの達成度」にも示したように,昨年度に行った本研究課題における時変計量経済モデルを用いた計量分析の結果を踏まえ,戦前期東京・大阪の米穀市場における効率性が時間を通じて大きく変動した原因について,計量ファイナンスならびに経済史の観点から解釈を行う.また,こうした解釈を論文としてまとめ,海外および国内の学会で報告したうえで,適切な海外の学術専門雑誌に投稿する予定である. 井奥と前田は,前項「研究実績の概要」にも先述したように輸移入米の流通,とりわけ朝鮮・台湾産の「植民地米」について検討を進める.その際には,既往の米穀史研究で指摘されてきたように,1910年代までと1920年代以降においてでは,植民地側における米穀政策の進展に伴って輸移入米の品種が変化したことに留意する必要があろう.そこで,今後は内地米品種の導入に代表される植民地側における米穀政策の動向を,野田と伊藤による分析結果と関連付けるための作業を進める.具体的には,朝鮮総督府と台湾総督府による品種改良政策の実態とその推移を検討した上で,改良米の内地移入量など流通過程の実態について統計資料から考察を進める予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
野田の次年度使用額が生じた理由としては,当初予定していた国内外の学会や研究会における研究動向調査のための旅行を行わなかったためである.また前田の理由は,当初予定していた史料整理のためのアルバイトを雇用しなかったこと,また国会図書館等における史料複写を実施しなかったためである.これは,本年度の研究では,製本済みの史料を主に用いたことによる. 次年度は最終年度であるため,野田は,単に国内外の学会や研究会における研究報告を行うためだけではなく,研究動向調査を行うための改めて旅費として配分する.また前田は,データ分析の解釈に用いる記述史料を収集するための旅費として配分する.
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