研究課題/領域番号 |
24530366
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
宮里 尚三 日本大学, 経済学部, 准教授 (60399532)
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研究分担者 |
斉藤 都美 明治学院大学, 経済学部, 准教授 (00376964)
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キーワード | 逆選択 / 厚生分析 / 社会保険 / 未納・未加入 |
研究概要 |
本研究では、社会保険の未納・未加入に関して逆選択の観点から分析し、厚生損失がどの程度かを推計することを目的としている。昨年度は学術誌の『会計検査研究』(第47号、2013年3月)において宮里(2013)「社会保険の未納・未加入に関する厚生分析:アドバースセレクションの視点からの研究」として本研究の研究成果として刊行したが、本年度は引き続き、その刊行した論文の発展を試みた。これまでの分析では『人口動態調査』の産業別の死亡率のデータと『国民年金被保険者実態調査』の産業別の国民年金納付・未納率の情報を用いて、納付者と未納者の平均寿命の差を推計している。産業別のデータを用いてGompertz曲線を推計し、それらから得られる産業別の平均寿命と産業別の納付・未納率の情報を利用し推計を行っている。産業別データの結果からは、国民年金納付者の平均寿命は約82歳であるのに対し未納者は約81歳となり、納付者は未納者に比べて長生きすることが示され、国民年金保険において逆選択が発生していることが示唆されている。このように産業別データでもある程度の推計は可能であるが、より厳密な推計のためには、やはり個票データを利用するのが望ましい。そこで、本年度は『人口動態調査』の死病についての個票データを利用申請し、より厳密な推計を試みた。個票データを用いた推計についての考察については現在行っている途中である。個票データを利用した推計の考察のまとめを本研究の最終年度に行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究計画の達成度については、まず産業別のデータであるが『人口動態調査』や『国民年金被保険者実態調査』のデータを用いて実際の推計を行い、学術誌に研究成果が掲載されている。さらに、推計の精度をより高いものにするために『人口動態調査』の死亡データの個票の利用申請を行い、推計結果の考察を行っている。その他にも社会保険の未納・未加入について多様な観点から分析するために、経済産業研究所が提供するJSTARデータの申請を平成24年度中に行い、使用許可も平成24年度中に得られている。JSATRデータの個票データを用いた分析の結果は、まだ出ていないが平成26年度には分析結果をまとめる予定である。 なお研究目的において、「わが国の社会保険の未納・未加入に関して逆選択の観点から実証的に分析するとともに、それにともなう厚生損失を推計する。また、推計結果を踏まえ、望ましい政策のあり方を検討する。」と述べた。それらは、研究実績の概要で示したように、わが国の国民年金保険において逆選択が発生していることが示唆され、また厚生損失については一定の留意は必要であるが年間で約1924億円という結果が得られている。したがって、現在までの達成度としては、おおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は個票データを用いて分析を進めるとともに、本研究の最終年度であるため、研究の総括も行う。個票データについては、まず『人口動態調査』の死亡データを用いた分析の考察をまとめる。その個票データを用いた分析の考察を深めることで、社会保険未納・未加入に関するより精度の高い考察が可能となる。またもう一つの個票データは、経済産業研究所などが提供している50歳以上の中高年を対象としたパネル調査「くらしと健康の調査(JSTAR)」である。このデータは少子高齢化に直面している日本が今後どのような社会保障政策を企画立案したら良いか検討するためのデータ提供を目的としているため、医療、介護、年金、生活習慣、健康状態関連の質問項目が充実している。公的年金については、受給している年金の種類、受取額、受取年数、加入期間についての質問項目がある。当該データは調査年が2005年,2006年と新しいことから、各回答者の余命年数はわからないが、健康状態などから余命年数を推計して分析を行う。また公的年金だけでなく民間保険会社の年金受給に関するデータも存在するため、公的年金と私的年金の役割分担や逆選択の程度の違いについても研究を進める。さらにJSTARデータに含まれる多様な属性を利用することで、逆選択がある場合にどのリスククラスでそれが深刻か、その理由は何かといった、より詳細な分析も行う。さらに、国民健康保険についても同様に、JSTARのデータを利用して分析を行う。それらの分析を通して、社会保険の未納・未加入について逆選択という観点から研究の総括を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初予定していた分担研究者のパソコン購入の必要性がなくなったため。 本年度の経費としては、パソコン関連周辺機器やPC関連消耗品、さらに社会保障関連の文献、資料収集のために費用を使う。また、分析に必要となる資料やデータの入力等のために1名程度の研究補助者に謝金を払うことも考えている。さらに、旅費は国内、海外での資料収集、研究報告にあてる。また、2014年においても、公共経済学、医療経済学の研究者を中心とした国際会議で研究成果を報告する予定である。
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