研究課題/領域番号 |
24530386
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 小樽商科大学 |
研究代表者 |
平井 進 小樽商科大学, 商学部, 教授 (30301964)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 経済史 |
研究概要 |
18・19世紀前半の北西ドイツ北海沿岸部東部地方について、エルベ川河口湾周辺を中心に、主に地域指導層(農民的上層)の土地保有のあり方等を調査した。 同地方の農民的土地保有権は、1)所有権、2)賃租義務つき所有権、3) 世襲賃租権・世襲借地権、4)マイアー権がみられたが、土地領主制の存在は限界的か周縁的であった。すなわち、沿海部でほとんど1)、エルベ川・ヴェーザー川下流域で1-3)が混在し他に4)、エルベ川河口湾周辺の左岸でほとんど1)で(1/10税は存在)わずかに3)・4)、右岸で基本的に1)であり、貴族家系・貴族地はヴェーザー川・エルベ川下流域で一定数存在したが、エルベ川河口湾周辺などではごく少数であった。そして、エルベ川河口湾周辺では、1810/20年代、地域役職者の保有規模は概ね30-50ha程度であったが、多くの場合居住教区内に土地保有の中心的地区があった反面、保有地が教区内の複数地区や複数教区にまたがる場合も少なくなかった。また、地域役職者が子弟や兄弟と表示か推測される人物と並んで土地を保有する場合がみられ、その場合本人がわずかな事例もあった。保有される農地は、農業改革期以前も不規則なブロック地か規則的な長条地で開放耕地を形成していたとは考えられず、共有地は主に湿原部分などに限られた。さらに、屋敷地・農地・共有地持分権の結合は、マルシュとゲーストの境界地帯等のみでみられた。以上の諸点からみて、一定の地域差が存在したものの、特にエルベ川河口湾周辺は、農業共同体組織はもとより土地領主制の存在も自明ではない地域であったが、そこでは一村単位で農民的土地保有を評価することに限界があり、また、土地保有は農地一子相続とはやや異なるシステムやライフサイクルなどにも規定されていたと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
すなわち、土地保有の調査で、その空間的分散事情について有望な史料を発見し得たが一部の調査・収集が終わらず、家族史的・家系的事情の調査も完全には終わらなかった。その理由は、平成24年度初めの交付申請書作成時に予想し得なかった、以下のような2つの事態が発生したことによる。第1に、近隣地方(北海沿岸部西部地方)について、関連したテーマを扱ったと思われる博士論文がドイツで提出されたこと、そして、それをも出発点とすると考えられる共同研究が現地で立ち上がったことなどが次第に明らかになり、そうした研究状況の変化に対して情報収集と調査の具体的方法・対象史料の選択の検討を慎重に行う必要があり、それらに時間がかかった。第2に、やむを得ない特別の事情が生じてドイツへの渡航期間がどうしても申請書作成時の予定どおりにはとれず、当初想定していた期間で現地文書館での史料の調査・収集を実施できなかったことである(この事情については、研究費の次年度繰越にも関連し、勤務校の担当係及び学術振興会にも対応を相談した)。それらの結果、史料の調査・収集活動にやや遅れが生じ、現地文書館との連絡によって事前に注目し、また現地で発見した有望な文書の調査・収集が上記のように意図通りには終わらなかった。
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今後の研究の推進方策 |
今後も、当初の計画内容どおり、(1)地域指導層(農民的上層)の社会的実態・諸関係、(時間的余裕に応じて)(2)それらによる地域管理のあり方という諸点から調査を進めて行きたい。 さしあたり、まず、(1)土地保有に関して、上述のように平成24年度中に調査・収集したかったがそれが完全には終わらなかった史料の調査・収集作業が挙げられる。すなわち、農民的土地保有の空間的分散に関する史料や家族史的・家系的事情などに関する史料の残りの部分の調査・収集である。そして、主に大農寡頭層の社会的結合関係やネットワークなどに関わるものを中心に文献・史料を調査したい。さらに、時間的余裕に応じて、(2)大農寡頭層とそのネットワークによる地域組織の作動・地域管理の実現の様態に関する調査である。目下のところ、当初の研究計画どおり、時間的制約から、(1)を主とし、中心とする予定である。 ただし、研究の進展、特に史料的発見に応じて、調査の内容や重点、順番は必要に応じて変更していくことにしたい。また、土地保有に関して、上記の理由により平成24年度に行う予定だった作業の一部を次年度にも行うことに加え、有望史料が見つかったため、予想以上に時間がかかる可能性があり、当初計画よりも現地での史料調査・収集作業を全体的に後にずらすことも検討している。そして、今後も、作業の際に、最近の研究動向、特に上述のような対象地域の近隣地方に関する現地の研究の進展などに十分に注意して情報を集め、調査の方針(特に具体的な対象・方法の設定・選択)を調整しなければならなくなる可能性があることに留意する必要がある。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額が生じたのは、「現在までの達成度」で述べたように、平成24年度初めの交付申請書作成時に予想し得なかった事情から、当初想定していた期間で現地ドイツでの文献・史料の調査・収集作業を実施できなかったことにより、未使用額が発生したためであるが、それは、文献・史料収集費、すなわち同年度中に終わらなかった部分の調査・収集を行うための費用としたい。 この額と次年度の研究費を合わせて、以下のような活動に使用する予定である。すなわち、現地ドイツの大学図書館・州立図書館に文献・史料の複写を依頼して取り寄せるほか、それらの図書館や関係する州立文書館・郡立文書館・市立文書館等と連絡しつつ、主に休業期間を利用して、ドイツに出張してそれらを訪問し、現地において文献・史料の調査・収集及びその関連作業を行いたい。国内でもILLで文献現物や複写を適宜とりよせるほか、各大学図書館で文献(特に同時代文献や地方史雑誌など)を調査・収集したい。また、関連する図書(特に同時代文献、近世・近代ドイツ史、農村社会史・農業史、地方史・地域史関係、その他関連図書など)を購入したい。さらに、史料・文献を記録・整理・印刷するための諸機材・文房具等の購入、文献・史料の製本などである。
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