研究課題/領域番号 |
24530386
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研究機関 | 小樽商科大学 |
研究代表者 |
平井 進 小樽商科大学, 商学部, 教授 (30301964)
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キーワード | 経済史 |
研究概要 |
本年度は、主に18・19世紀前半の北西ドイツ・エルベ河口湾周辺について、18世紀後半以降の左岸地域に重点をおきつつ、地域指導層とその母胎となると考えらえる農民的上層の土地保有、ネットワーク、それらによる地域組織の作動という観点から、前2点を中心に、調査研究を行った。 そのため、随時現地の文書館・図書館と連絡して、文献・史料を取り寄せたほか、現地に出張して、昨年度未完に終わった19世紀初めの土地所有調査記録、土地負担報告、家屋の保有者関係史資料、19世紀初め編纂の家譜記録とそれを補完する家譜資料・手稿や婚姻同意証記録・教会文書(一部教区、1814年以降)、教区役職者選出関係文書(1814年以降)、排水組織会計記録(一部地区)などを調査した。それらの結果、以下のようなことがわかった。第1に、農民屋敷の保有者の交替を、数教区で追跡できたが、姓がしばしば変わり、娘の相続による場合に加え売買によるとみられる場合もある程度存在した。19世紀初頭、農地については、用益面からみれば、特に堤防近接教区では、耕地が牧草地を圧倒し耕種農業に傾斜していた。第2に、地域指導層たる農民的上層家族は、姻戚関係によって、教区を越えて相互に結びつき、そのネットワークは市民的職業従事者の一部にも達したが、領邦地方官吏をあまり統合し得ていなかったと思われる。第3に、教区役職者の候補者推薦には農民的上層のネットワークが影響力をもち得たと考えられるが、1814-1852年の時期をみる限り、選出に際して、領邦地方官吏はその影響力を制約し得たと考えられる。他方、排水組織は教区を越えて土地保有者を組織したが、土地保有者が所属する教区ごとに教区役職者が一定の影響を及ぼし得たと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現地諸文書館の協力的な態度や助言にも助けられ、概ね予定をこなすことができた。主要な利用文書館の一つである州立シュターデ文書館が、新築・移転作業が昨年度聞いた予定よりも遅れたため、春休み期間中は全面休館するという、予想外の事態に見舞われた。しかし、運良く夏休みの出張直前に閉館予定時期に関する情報が得られたため、急遽調査順番を入れ替え、また、1枚0.5ユーロと高額ではあるが多くの複写依頼に同意していただき調査を急ぐなどして、何とか対策を立てることができ、閉館中も文書の複写を送っていただき、春休み閉館の影響を最小限に食い止めることができた。クックスハーフェン郡立文書館では、通常の開館日・開館時間以外の曜日・時間でも利用を認めていただき、文書閲覧室に特別席を設けて毎日文書やその他の資料を随時注文して閲覧することを許していただいたほか、郷土史家を兼ねる職員から史資料に関する具体的な情報を提供していただき、それらへのアプローチや地元の教区教会への連絡の便宜も図っていただき、比較的効率的に調査し得た。担当アルヒヴァールをはじめとする両文書館の御協力に感謝したい。また、春休みの調査では、州立シュターデ文書館を利用できなかったが、シュターデ教会郡役所(教会文書局の支所を兼ねる)と教区教会の文書をも閲覧し得た。それらの結果、当初予定していた史資料の調査は概ね遂行することができ、全体として順調に進展したといえる。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定どおり、(1)地域指導層・農民的上層の社会的実態・諸関係に関して本年度までの史資料の調査を継続・補充しつつ、時間的余裕に応じて、(2)それらやそれらのネットワークによる地域組織の作動・地域管理の実現のあり方についても史資料を調査・収集したい。さしあたり、(1)は、農民的上層家族の土地保有の実態や社会的結合関係のあり方についてなど、 (2)は、地域組織の役職者の選抜・補充の実際のあり方の未調査部分、地域管理の実際に関連する史資料などを考えている。目下のところ、時間的制約から、(1)を優先するつもりである。ただし、研究の進展、特に史料的状況・発見や関係文書館の事情に応じて、調査の内容や重点、順番は必要に応じて調整・変更していくことにしたい。また、作業に際して、特に最近の研究動向との関係、対象地域の近隣地域に関する現地の研究の進展に十分注意して情報集めを怠らず、調査方針を調整しなければならないことがあることもあらかじめ断っておきたい。 今後の留意点・対策としては、以下のような諸点が挙げられる。まず、史料の不均質な残存状況に応じた調査地域の柔軟な設定などの調査対象上の工夫、逆に隣接地区との関係や近隣地方との対比という調査観点上の工夫である。次に、教会郡役所所蔵文書のマイクロフィッシュの一部の状態が必ずしもよくないことがわかったため、その部分の情報を得たい場合教区教会に協力を依頼するか教会文書局本局に出向くなどの方策を考えたい。そして、戦災などで必ずしも多いとはいえない1806年以前の史料が州立文書館所蔵の中央官庁文書群の中にも多少あることが本年度わかったので、今後の研究の進展によって必要になれば閲覧したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度への繰越額が生じた要因として、第1に、第2回目の現地ドイツ調査からの帰国が諸都合で次年度の4月初めとなったため、調査費用の一部(旅費や複写関係費用など)を次年度に使用する形になったからである(したがってその分は報告時点ですでに使用済みか支払い手続き中になっていると思われる)。また、第2に、現地調査の際の旅費(宿泊費・日当など)や書籍購入の方法などで、多少節約できた結果である。 実際の繰越額は次年度の研究費と合わせて、本年度同様に、以下のように使用する予定である。第1に、現地ドイツの諸文書館・図書館に文献・史料の複写を依頼して取り寄せる費用のほか、主に授業休業期間を利用して、特に諸文書館や関連文書をもつその他の施設で文書史料を探索し、調査・収集する活動や関連活動(複写・輸送・整理など)の費用としたい。また、国内の各大学図書館からも図書や複写を取り寄せるほか、必要に応じて、文献(特に地方史雑誌など)調査を行う費用とする。第2に、関連図書(同時代文献、近世・近代ドイツ史、農村社会史・農業史、地方史・地域史、それらの関連分野など)を購入したい。第3に、史料・文献を記録・整理・印刷するための諸機材・文房具の購入、複写・印刷した文献・史料の製本などである。
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