本年度は、18・19世紀前半の北西ドイツ北海沿岸地方について、主に東部のエルベ河口湾周辺に位置するハーデルン地域の高地地区における農民的上層の土地保有の実態や社会的関係のあり方、教区役職者の選出に関する未調査部分を中心に調査研究を行った。そのため、現地文書館と連絡して史資料の情報や複写を入手し、授業休業期間中には州立シュターデ文書館、クックスハーフェン郡文書館、同市立文書館やハンブルク大学図書館などを訪問した。それらの結果主に以下の諸点が判明した。第1に、1813年以前にホーフ解体が生じ得たことが確認され、1826-1852年の一部教区をみる限り土地移動は活発で相続と売買が入り交じり件数的に両者とも小地片が多かった。第2に、北ドイツ諸大学の在籍者に地域内農村教区の出身者が確認された。また、農村教区で、市民・商工業者による農地保有と少数ながら商工業者の教区役職就任が確認された。第3に、教区役職者選出について一部教区をみる限り、保有者が何度も役職に就くホーフや家族名は存在したが、役職が特定のホーフや家系に固定されていたわけではなく、教区が推薦した候補者を地方官庁は実際に審査しており、領邦当局と教区が対立して最終的に前者の主張が後者に受け入れられた例も存在した。 昨年度までの調査研究と併せて本研究では、特に18・19世紀前半のハーデルン地域(高地地区)に関して、第1に農民的上層の土地保有は領主制・共同体的制約からほとんど自由で居住地区をしばしば越えたが一定の流動性をもち、第2に農民的上層家族は姻戚関係で広く相互に結びついていたが市民層とも社会的に近かったと考えられ、第3に地域指導層は基本的に農民的上層を基盤として自己補充されたが、領邦当局の制約も受け得た、などが明らかになった。
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