研究課題/領域番号 |
24530388
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
平本 厚 東北大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (90125641)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | テレビ / エレクトロニクス / 競争力 / グローバル競争 / イノベーション・システム / 産業ダイナミズム |
研究実績の概要 |
これまでの全体の歴史過程の概観と作業仮説の構築、資料収集の方針を踏まえ、本年度は、日本産業が韓国、台湾、中国などのメーカーなどに追い抜かれる過程の研究を実施した。対象時期は2000年代後半以降であり、まず、①その全体を『フラットパネル・ディスプレイ』各年版などの文献で詳細に後付けつつ、とくに②イノベーションの過程の分析に焦点をあてた。後者については、学会雑誌である、『液晶』、『映像情報メディア学会誌』などで、学術情報の収集や学会事情の調査と分析に努める一方、斯界の技術者、研究者の回顧録である『液晶紳士録』に登場する、代表的な技術者にインタビューを行った。①については、富士キメラ総研の一連の報告書(『ワールドワイドエレクトロニクス市場総調査』各年版など)や株式会社アイアールシーの『企業グループの実態』など、一般には入手しがたい、業界調査機関の報告書の収集と分析にも注力した。 その結果、①日本産業が追い抜かれる背景には、研究開発でのリードが失われたことがあること、②そのことの基礎には、斯界の技術者、研究者の数の減少があること、③また、学会活動、とくに企業のそれへの参加が停滞していること、④産業技術政策でも、近年の「実用化シフト」、基礎研究支援の停滞がこれに寄与している可能性が高いこと、⑤つまり、この過程の背景には、この間の日本のイノベーションのシステムの転換があること、⑥その意味では、昨年度に明らかにした産業構造の問題と同様、イノベーションの点でも2000年代後半以降は、戦前ラジオの場合と類似していること、などが明らかになった。つまり、イノベーションのシステムの問題で日本産業は他の国々に後れていき始めているということが明らかになった。これらは、本研究の後半の核心部分である、日本のエレクトロニクスの退潮の分析に基本的な見通しを確保したものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
これまでも指摘してきたように、資料収集の規模が予想をはるかに上回ったために予定が遅れていることに加え、今年度は研究代表者の個人的事情(定年退職)が重なり、作業が予想より遅れてしまった。これまで、資料収集、企業の実態調査、当事者のインタビューと、予定した研究計画の大きな流れは遂行できているが、成果のとりまとめに手間取っているのが現状である。「研究実績の概要」に指摘したように、分析の内容には既に基本的な見通しを得ており、また来年度は個人的事情も好転するので、進度の挽回は期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画に掲げたとおり、来年度は本研究の最終年度なので、成果をまとめることを最大の目標とし、これまで収集した資料を分析するとともに、それに必要な追加の資料収集、整理、補足調査をも行う。とくに、具体的な細部について当事者のインタビューを重ねて実施する。 分析の大きな方向性としては、1990年代までは世界を主導していた日本のイノベーションと産業発展のシステムが何故、転換したのか、そのメカニズムを問い、社会経済との関連を問題にすることである。そのことで、現状の日本のエレクトロニクスには何が欠けているかを明確にしたい。つまり、長期的な歴史的観点から現状の問題点を明らかにする。 具体的には、研究の枢要部分を論文として投稿しつつ、年度末に本研究の全体を『報告書』としてまとめることが最大の目標である。
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次年度使用額が生じた理由 |
「現在までの達成度」で記載したような事情で、本年度は予定した研究計画の基本は実施したものの、作業が多少遅れたために次年度使用額が若干発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は、これまでの遅れを取り戻すため、補足調査や成果発表を精力的に展開する計画であり、旅費、物品費に多くを支出する予定である。
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