研究課題/領域番号 |
24530397
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
友部 謙一 大阪大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (00227646)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 乳児死亡 / 主体均衡 / 工業化 / 都市化 / 家族経済 |
研究概要 |
本年度の研究実績の第一は統計データの分析である。戦間期大阪市とその周辺を含んだ乳児死亡の分析のための乳幼児死亡(死産を含む)や妊産婦死亡のデータ収集とその分析のためのデータベース化を行なった。特に、1)基本的な乳児死亡の府県別統計資料として、『市町村別人口動態統計』(内閣統計局、大正14年、昭和5年、昭和10年調査)や『出産・出生・死産及乳幼児死亡統計』(全3巻、恩賜財団母子愛育会、昭和12年刊)を使用して、いくつかの町村合併を調整しながら大正末期から昭和戦前期までの経年的な市町村別乳児死統計データシートを新たに作成した。また、2)地域単位の乳児死亡統計の収集とそのデータシートを以下のように完成させた。脚気・食生活・乳児死亡の関係については、脚気の発生から終息とその後に至る食生活や生活環境の変遷との関係を探る。調査単位が区町村以下の規模である統計に絞ると、『大阪市細民街の出生及死産調査』(大阪市役所産業部調査課、昭和8年調査)、『大阪府衛生組合地域別出産、死亡、乳児死亡調査』(大阪市保健部、昭和10年調査)、『大阪市乳児発育健康調査』(大阪市保健部、昭和14年調査)。 第2は研究成果の報告である。上記データを活用した論文"The construction of cause-death statistics database of modern Japan: issues and approaches(With Makoto Hanashima and Emiko Higami)"をthe 37th Meeting of the Social Science History Association(Vancouver)にて報告した。最後に、論文の公刊であるが、『社会経済史学の課題と展望』(社会経済史学会編、2012年)に本研究成果を盛り込んだ「体位と栄養」が掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の研究計画・方法の概要は以下の通りである。1)大正期・昭和戦前期に調査された各町村区単位の乳児死亡統計を全国的に集計し、分析可能な時系列データを作成する、2)町村区未満の小規模地区の乳児死亡統計を最大限収集し、分析可能な統計データシートを作成する、3)近代日本の死因別死亡統計、とくに乳児死亡との関連の深い疾病死亡統計を精査・再点検する。すなわち、近代日本における疾病構造の転換(疫学的転換Epidemiologic transition)の全体像を精確に再構成する。この背景には、「疾病及び関連保健問題の国際統計分類」(ICD)による死因分類が1900年以降ほぼ10年毎に変更され、『衛生局年報』と『人口動態統計』をそのまま連結させることができなかった事情がある。このICDの変更を考慮した修正統計である『都道府県別死因別死亡者数統計データベース』(略称CSDS)を基礎データとしながら、1)本研究で特に必要とする疾病・感染症である結核や関連誤診が多くあったと予測される肺炎や気管支炎については、スペイン風邪(1918~19年)との重複計上・誤差の修正を含め、年齢別・男女別・地域別のデータの吟味、つぎに2)乳児死亡に強く連関するその他の疾患(赤痢・疫痢・梅毒・マラリア・麻疹・下痢腸炎・産褥熱・先天性弱質など)の年齢別・男女別・地域別のデータの吟味を再度行い、より精確な近代日本の疫学的転換像を提示することを本年度の第一の研究課題としてきた。 上記の研究目標に対して、国際学会において"The construction of cause-death statistics database of modern Japan: issues and approaches(With Makoto Hanashima and Emiko Higami)"を報告した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策については、本年度のCSDSの修正に基づいた基幹死亡統計データベースの分析結果を活用しながら、乳児死亡とその関連疾病構造との関係を核とした特定時空間の生活環境(例:戦間期の大阪市周辺、青森県農村部や石川県農村部など)を精確な統計データに基づき分析・考察することに焦点を絞りたい。乳児死亡のデータについては、区町村以下の小規模な調査単位で行われた資料を農村部と都市部でできるかぎり多く収集することにしたい。その理由は、明治後期から昭和戦前期までの日本社会には、各地域に地域の名望家や慈善活動家あるいは研究機関を中心に地域隣保組織としての社会的資本Social capitalが形成されており、その組織の地域単位で乳児死亡調査が行われている場合がある(たとえば、大正末期から昭和戦前期の大阪市など)。そうしたマイクロなデータを蓄積・分析することにより、乳児や母親の暮した生活環境を(労働環境や家庭環境を含め)できるだけ忠実に再構成することにしたい。都市部での母親の結核罹患とその後の帰郷による出身村での村民の結核罹患(乳児の可能性を含め)、あるいは都市での食生活の変化による脚気罹患と乳児脚気の発生という事象を想定しても、母子が当時暮した生活が依拠したその地域の生活環境を知ることが何よりも必要になるからだ。とくに、乳児死亡と乳児の結核罹患の関係について分析と考察をさらに深めたい。内務省衛生局編『結核予防に関する調査報告』(大正15年調査)を基本的な資料としたうえで、農村結核が隆盛した北陸地方のデータ収集を進める。有馬宗雄(石川県衛生課)『石川県農村結核の研究』(昭和14年調査)などから町村別結核および生活環境統計データシートを作成する。そして、11月米国シカゴSocial Science History Association年次大会においてその成果を報告したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究計画に変更はなく、当初予定通りの計画を進めていく。 具体的には、脚気・食生活・乳児死亡の相互連関を扱った論文について、大阪市の事例をさらに充実させ、脚気・乳児脚気発生とその終息過程のメカニズムを、食生活を含めた職工世帯の生活環境の変化と行政や社会的資本による生活指導(介入)の相互過程として分析した比較史論文を作成し、平成25年11月に米国シカゴで開催されるSocial Science History Association年次大会において、以下の2本の研究報告を行う。1)The Regional Variation of Mortality in Modern Japan: Silk, Cotton, and Tuberculosis(With Makoto Hanashima), 2)"Urban laboring poor against Infant Mortality at Osaka city of the early 20th century:Who saved babies?"(With Emiko Higami)
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