研究実績の概要 |
今年度は最終年度でもあり、データファイルの集大成と相互チェックを重点的に行った。具体的には、前年度に引き続き、1)大正期・昭和戦前期に調査された各町村区単位の乳児死亡統計を全国的に集計し、分析可能な時系列データを作成した、2)20世紀初頭の大阪市について町村区未満の小規模地区の乳児死亡統計を最大限収集し、分析可能な統計データシートを作成し、その分析を行った、そして3)近代日本の死因別死亡統計、とくに乳児死亡との関連の深い疾病死亡統計を精査・再点検した。これらの作業により、近代日本における疾病構造の転換(疫学的転換Epidemiologic transition)の地域類型を提示し、それに基づいた新たな分析を開始し、算定的ではあるがその研究成果を国際学会(グローバル日本研究国際シンポジウム『開く日本・閉じる日本:人間移動学事始め』阪大開催:絹・綿・女工:近代日本の結核罹患)にて報告することができた。この研究の背景には、「疾病及び関連保健問題の国際統計分類」(ICD)による死因分類が1900年以降ほぼ10年毎に変更され、『衛生局年報』と『人口動態統計』をそのまま連結させることができなかった事情がある。また、特筆すべき今年度の分析の特徴は、前近代である徳川時代の出生力研究と感染症研究の成果を交え、「なぜ徳川時代の婚姻出生力が同時代の先進諸国と比較して、低かったのか」という日本の歴史人口学で長い間検討されてきた大問題に、新たな仮説を提示したことである。その研究成果は国際学会(XVIIth World Economic History Congress)で報告された(Fertility, infant mortality and economic development in Tokugawa Japan:subjective equilibrium of peasant household and market economy)。最後に、1)から3)の作業に基づき、乳児死亡とその関連疾病構造との関係を核とした特定時空間の生活環境を精確な統計データに基づき分析・考察した。
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