研究全体においては、工業化と国民経済の成立について多面的な分析をおこない、コミュニケーション・インフラストラクチュアの機能によって地域経済の編成が起きるメカニズムを、ドイツ語圏と中欧とをフィールドとして考察した。これにより研究目的である、地域経済の編成の動因に関する知見を得ようとした。 平成27年度は、前年度に引き続き、19世紀ドイツ語圏の鉄道業を対象に、地域国家である領邦の所有・経営する鉄道がナショナル・ベースで統合される条件について再考察する論考の執筆をおこなった。ドイツ所在の複数の公文書館・史料館における主に官庁文書に対する史料調査の成果をもとに、領邦鉄道のうち最大のものであり後に統一されたドイツ国鉄であるライヒスバーンの母体ともなったプロイセン国鉄について分析を加えた。この結果、プロイセン国鉄における組織改革の効果は、合併による経営規模の拡大以降のものは経営の効率性上昇に顕著に大きな影響を及ぼしたとはいえないことが結論できた。ここから示唆されるのは、19世紀末の時点で、ライヒ=ドイツ国家統規模での鉄道業の統一には、組織効率性の点では経済合理性がなかったことである。これらの分析結果を、前年度にもおこなっている欧米における空間経済史的な地域経済分析の成果のサーベイによる知見と接合したところ、コミュニケーション・ツールである鉄道業の少なくともライヒレベルでの統合の未完成と国民経済のフォーマルな定式化にもとづく成立が一九二〇年代以降であろうとの結果が補完的であることを立証できた。一連の調査はドイツ語圏の陸運に集中したが、中欧規模での水運による地域経済の統合についても示唆的な結果を得ているといえる。 これに関連し、鉄道業における制度的統一の遅滞を組織の観点から調査した研究は、欧州での開催があった国際学会等で報告し、論文は欧州学会誌に投稿、審査を受けている。
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