研究課題/領域番号 |
24530404
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研究機関 | 下関市立大学 |
研究代表者 |
飯塚 靖 下関市立大学, 経済学部, 教授 (00514126)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 満洲 / 中国共産党 / 兵器生産 / 留用者 |
研究実績の概要 |
本年度は、国共内戦時期瀋陽を追われた中国共産党が、その後東北奥地でどのようにして兵器生産を進めたかについて、論文を完結させることができた。具体的には、下関市立大学論集に「国共内戦期・中国共産党による東北根拠地での兵器生産」(Ⅱ)(Ⅲ)とのタイトルの論文を掲載した。本論文は、中国共産党による東北での兵器生産の全体像やそこでの日本人留用の実態について国内外を通じて初めて明らかにしたものであり、画期的な研究であると言える。 また、東洋文庫所蔵の「中共事情」について、発行経緯と史料的価値について検証を実施した。結論として本資料は、1953年からの後期集団引揚者からの聞き取り調査をまとめた重要資料であり、内閣総理大臣官房調査室が外郭団体を利用して実施した調査であることが確認できた。さらには、この「中共事情」の東洋文庫所蔵分には欠けている部分が、外務省外交史料館に相当数所蔵されていることも判明し、その資料の全体像を把握するために、外交史料館での調査も実施した。その内容については、論文を準備中である。 さらに、戦後中共軍の被服廠に留用された下関在住の方へのインタビューも実施できた。この方は、被服廠留用解除後は鶴崗炭鉱で鉱夫としても働いており、その証言は留用日本人問題や戦後中共経営下の東北炭鉱を研究する上でも貴重なものである。この証言は、本人の手記の形で公刊を準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の予定では、本年度までに著書出版に必要な論文をまとめ上げる予定であった。ただ、予想以上に中共の兵器生産に関する研究に時間が掛ってしまい、それができなかった。その理由は、中共の兵器生産が各地に分散し非常に錯綜した内容となっており、その動向を一つ一つ解き明かすことに時間と労力が掛ってしまったことである。第二に、「中共事情」という新資料の発見があり、本研究プロジェクトを完成させるためには、本資料の解析が欠かせないため、新たに本資料の収集と分析を開始したためである。本資料は、留用者からの聞き取り調査がメインであり、東北の科学研究機関や重化学工業分野での留用者の貴重な証言が多数収録されており、その分析は本研究プロジェクトの完成のために不可欠である。以上の理由から、今後は著書の出版は少し遅らせ、まずは本資料の分析を優先させたい。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、第一に、中共地区留用者問題の研究を本格的に実施したい。具体的にはまず、上記「中共事情」について、この調査が実施された目的と背景、調査の具体的内容、それに関係した人物、CIAとの関係などについて、内閣総理大臣官房調査室の文書、「辰巳栄一関係文書」などを基に解明する。次に、合計でおよそ千冊に上る「中共事情」を読み込み、この資料が留用者研究、戦後中国の軍事・政治・経済・社会の研究にいかなる意義を持つのか、すなわち歴史研究史料としていかなる価値を有するのかを検討する。第二に、東北の中共の兵器生産に関するエピローグとも言うべき論文の執筆を準備する。すなわち、1949年に国共内戦が終結すると、中国共産党は東北の兵器工場をどのように再編したのかという問題である。基本的には、軍需生産の民需転換、奥地工場の大都市部への移転が進められたはずであるが、その実態は果たしていかなるものであったのか、これを追究したい。また朝鮮戦争が勃発すると再度軍需生産が重視され、戦時動員体制が構築されるが、その中で東北の兵器生産はいかに再編されるのか、この点の解明も目指したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
大学の国内研修で半年間東京で研究したため、旅費の支出が少なくてすんだ。
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次年度使用額の使用計画 |
資料調査の東京出張のための旅費として使用したい。
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