研究課題/領域番号 |
24530410
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研究機関 | 愛知淑徳大学 |
研究代表者 |
石坂 綾子 愛知淑徳大学, ビジネス学部, 教授 (40329834)
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キーワード | 国際金融史 / 世界銀行 / ドイツ |
研究概要 |
本研究の目的は,ドイツと世界銀行(以下,世銀と省略)の関係に着目し,世銀がドイツから調達した資金が,この機関を通じてどこの国のどのようなプロジェクトに融資されるのか,またその融資はどのような方針やプロセスを経て実施されるのかを明らかにし,国際的な開発援助資金の流れを解明することであった。 平成25年度は,7月に世銀について共通の関心を持つ研究者とともに,「初期の世界銀行における復興と開発:1944-62年」と題するパネルに参加し,「世界銀行の援助・融資政策とドイツ」についての口頭発表を行った。この発表では,世銀とドイツ資本市場の復興(50年代末期),ドイツにおける世銀債の発行(59年4月~),世銀出資マルク18%分の解除(50年代後半),世銀によるドイツの民間金融機関へのポートフォリオの売却(50年代後半~)などを検討した。その結果,世銀によるドイツからの資金調達と融資が,ドイツ連邦銀行による短期・中期ローン以外に,多様な方法を通じて実施されていることが明らかとなった。また,このような世銀の資金調達にドイツが大きく貢献した背景には,世銀の融資先である開発途上国とドイツの主力輸出産業(= 投資財)とのマッチングが良好であること,国際的貢献をアピールするために,世銀を活用したいというドイツの思惑が存在した。 以上のように,世銀によるドイツからの資金調達には,世銀債の発行やポートフォリオの売却において,民間の金融機関が関与しており,8月には,世銀債発行についての交渉過程を検討するために,ドイツ銀行資料室(ドイツ連邦共和国フランクフルト)にて世銀債発行についての資料調査を実施した。ドイツ銀行は,ドイツを代表するユニバーサルバンクであり,世銀債発行の主幹事として,世銀と深い結びつきがあった。ドイツにおける世銀債発行は,資本市場の復興とユニバーサルバンクの復元によって成立したと言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究はおおむね順調に進展していると考える。本報告書の「研究実績の概要」において述べたように,世銀によるドイツからの資金調達には,多様な方法が用いられているが,その事実が含意する,より具体的な意味を明らかにしつつある。 例えば,世銀出資マルク18%分の解除が,いつどのような判断に基づいて実施されたのか,他の加盟国との解除率の比較,また,世銀によるドイツの民間金融機関へのポートフォリオの売却については,ドイツのどの金融機関が,世銀の加盟国に対するどのような融資を購入したのか,その金額の規模,通貨単位(ドルまたはマルク)など,世銀に対するドイツの貢献を明らかにすることができた。ドイツにおける世銀債発行についても,主幹事のドイツ銀行,共同パートナーのドレスナー銀行以外に,どのような金融機関が世銀債発行に関与したのかという点が明確となった。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度が本研究課題の最終年度となる。そのため,従来の研究計画通りに,収集した資料の読解と分析を進めて行くと同時に,研究成果をとりまとめ,一定のまとまった段階で口頭発表をし,論考の改善につとめたい。 また,「研究実績の概要」において述べたように,これまでの研究において,世銀によるドイツからの資金調達と融資が,多様な方法を通じて実施されており,その融資やプロジェクト内容も明らかとなった。その中心は,インドとともに,ヨーロッパ諸国(オーストリア,フィンランド,イタリア,ノルウェー),日本など,信用力が高い中進国が占めており,プロジェクトも電力,港湾,鉄道,産業開発など多岐にわたる。このように,資金調達や融資の実態は具体的に明らかになりつつあるが,それが世銀による,どのような判断に基づいているのかという点については,今後の課題として残されている。その際,世銀を通じた融資にも注目したい。1950年代以降,ドイツとヨーロッパ諸国との関係として,何よりもまずヨーロッパ経済共同体(EEC)が想起され,世銀を通じた融資については十分に明らかにされているとは言えない。さらに,ユーゴスラヴィアやエジプトへの世銀融資に対するドイツへの資金要請など,冷戦と世銀の関係にも目を向ける必要がある。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成26年度に使用額が生じたのは,購入を予定していた洋書書籍の刊行が,当初の予定よりも遅れ,その購入代金を翌年度に執行することとしたためである。 遅延した洋書書籍の刊行の目処は立っており,平成26年度においても物品費として継続的に洋書書籍を購入していく。
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