平成26年度は本研究課題の最終年度にあたる。研究成果をより体系的にまとめていくために,世界銀行(以下,世銀と省略)とドイツとの関係について,7月と10月に2つの学会において報告を行った。この2度の報告ではドイツにおける世銀債発行についての背景,世銀のポートフォリオ売却のあり方など,国際金融機関としての世銀業務について議論し,「冷戦」と「開発」の視点から世銀融資の時代背景を考察することができた。この間,8月にはアメリカ合衆国ワシントンDCの世界銀行グループ資料室(The World Bank Group Archives)において資料調査を行った。 以上の研究活動を通じて,世銀融資とドイツとの関係について,以下の研究成果を得ることができた。(1)世銀に融資されたマルクは,ヨーロッパの地域開発に活用された。世銀は50年代後半にオーストリアの電力プロジェクトに融資した。この融資とともにドイツ資本市場においても社債発行によって資金が調達されており,「抱き合わせ借款」が実施された。また,マルクは社会主義国ユーゴスラヴィアへの融資にも活用された。(2)世銀によるマルクの最大の融資国はインドであった。58年のインド外貨危機以降,インドの開発銀行(ICICI)を通じたプロジェクトファイナンスが行われた。このICICIにはドイツ銀行・ドレスナー銀行が出資した。インド・パキスタンの5か年計画の検証には,世銀の要請を受けてドイツ銀行頭取アプス(Hermann J. Abs)が関与した。(3)世銀とドイツとの関係は,50年代後半から60年代前半のブラック総裁期に構築された。この関係が強化されたのは,その後の60年代半ばから後半のウッズ総裁・マクナマラ総裁期である。ドイツは世銀債発行によってアメリカに替わる役割を果たし,世銀の活動を全面的に支える存在となった。
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