研究課題/領域番号 |
24530422
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
井上 光太郎 東京工業大学, 社会理工学研究科, 教授 (90381904)
|
研究分担者 |
鈴木 一功 早稲田大学, 大学院ファイナンス研究科, 教授 (40338653)
加藤 英明 名古屋大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (80177435)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | クロスボーダーM&A / コーポレートガバナンス / 株式市場 / イベントスタディ |
研究概要 |
当該年度は4つの研究プロジェクトを開始・進行させた。 第1のプロジェクトとして、日本企業によるクロスボーダーM&Aの経済性を、発表時の株式市場の評価から分析している。この研究では、日本のクロスボーダーM&Aが株式市場からプラスの評価を受けており、かつ国内M&Aよりも評価が高いこと、その背景に海外市場における成長機会の獲得期待があるという仮説と整合的な結果を得た。この結果は、昨今の日本企業による海外企業買収を株主の視点で支持するものである。 第2のプロジェクトは、日本企業のM&A後の長期のパフォーマンスの検証であり、第1のプロジェクトの拡張である。主な発見事項として、買収時には株主価値の上昇がみられるが、その後の期間では株価の超過リターンはなく、全体としてM&Aが株主価値の増大に貢献していること、業績については買収直後に悪化が見られるが、買収後5年間で改善がみられることである。株式市場の効率性と整合的な結果であり、第1のプロジェクトの結果を補強する証拠を提示している。第1と第2のプロジェクトの結果のエッセンスは、日本経済新聞などで記事化され、注目度は高い。 第3のプロジェクトは、日本を含むアジア主要国および欧米主要国のM&Aにおける取引性格と買収価格設定の実証分析である。本プロジェクトでは、この分野の研究の主流である法とファイナンスの視点に加え、企業文化の視点からの分析を行った。現時点の主な発見として、法の起源に加え、不確実性回避の企業文化が買収方法や買収価格決定に影響を持つという新たな結果を得ている。 第4のプロジェクトでは、中国のクロスボーダーM&Aに関する株式市場の評価を検証している。日本以外のアジア諸国のクロスボーダーM&Aに関する研究結果から、日本のM&Aの取引性格や特徴が、日本に特徴的なものか、アジアに一般的にみられる結果かを明らかにすることを目的としている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究に関し、計画では初年度に当たる2012年度は、データの取得・整備、予備的分析を進める予定であった。現在、上記の4プロジェクトについては予備的分析を行い、うち第2のプロジェクトを除く3プロジェクトについては国際学会での報告を行い、2本は専門誌への投稿段階に進んでおり、おおむね順調に進展していると言える。一方、これまでの研究の発見事項を、さらに発展させる必要を感じており、第2、第3のプロジェクトについてはまだ分析を要する段階である。さらに、企業の株式保有構造、経営者構成等に注目し、M&A行動を分析する第5のプロジェクトに着手しているが、この研究については文献研究、データ取得・整備に着手の段階にある。 第1のプロジェクトは、Ings and Inoue論文としてドラフトにまとめ、2012年の米国および日本の学会で報告し、投稿準備段階に至っている。 第2のプロジェクトは、Inoue, Nara and Yamasaki論文としてドラフトにまとめ、本年中にRIETI(経済産業研究所)のDiscussion Paperとして公開予定である。この結果のエッセンスは、日本経済新聞の経済教室欄で紹介している。今後、学会報告等を経て、さらなる精緻化が必要な段階である。 第3のプロジェクトは、Bremer, Hoshi, Inoue and Suzuki論文としてドラフトにまとめ、2013年の米国学会で報告した。この研究は、発見事項に新規性はあるが、そのために結果の頑健性に関する課題が多く、さらなる分析が必要である。 第4のプロジェクトは、Inoue, Chen, Zhu, Yan, and Song論文としてドラフトにまとめ、2013年の米国学会で報告し、投稿準備段階にある。
|
今後の研究の推進方策 |
第1および第4のプロジェクトついては、学会および学会誌のコメントへの対応を中心に精緻化作業を進め、国際専門誌への投稿を行うことを計画している。 第2および第3のプロジェクトについては、予備的分析は終えているが、分析上の課題が多く残されており、データの追加を行い、発見事項の確認作業を進めることを計画している。特に第3の研究については、イベントスタディによる株式市場の評価の検証を含めて分析を進めることを計画しており、そのためのグローバルの株価データ取得と整理・分析が必要である。この作業を本年中に進めることを計画している。その上で、国際学会での報告等を行い、そこでのコメントに対応することで論文の精緻化を進めることを計画している。 日本企業の海外直接投資の経済性を分析する上では、海外企業との比較が必要である。その視点で第3、第4のプロジェクトはアジア地域に焦点を当てて、その視点で行っているが、先進国の企業間の市場拡大をめぐる競争の重要性も高い。第3のプロジェクトでは、日本企業のクロスボーダーM&Aへの取り組みは他の先進国と比較して消極的との結果も得ており、その要因を含めた分析が必要である。この視点に基づき、先進国の企業の株式保有構造、経営者構成等に注目し、M&A行動を分析する第5のプロジェクトを進める。現在、データの取得、整備の段階にあり、本年中に仮説の構築、予備的分析を行うことを計画している。分析当たっては、金融を除く全産業を対象とする分析のほか、日本企業にとって重要性の高まっている環境・エネルギー分野や電機分野に焦点を当てた分析も計画している。
|
次年度の研究費の使用計画 |
本年度は、研究費を当初予定より効率的に使用し、未使用額が95,329円発生した。次年度においては、進行中の研究プロジェクトを成果に結びつけるため、本年度未使用額を含めて、使用することを計画している。 本年度は、前年度に分析を進め、論文ドラフトを準備している第1から第4のプロジェクトについては、今後、海外の学会での報告を経て、コメントへの対応を行い、学会誌への投稿を進める。そのため、海外学会参加費(海外出張旅費1回20万円×2名:研究代表者+研究分担者)が発生する。 また、前年度に引き続き、データの取得・整理および分析を進める第3および第4のプロジェクトに関しては、データベース費(グローバル株価データ約80万円)が発生する。また、グローバルをカバーする企業財務・経営陣・株式保有構造のデータは、オンラインベースのテキストデータになるため、大学院生のアルバイトを雇用して、データのダウンロード作業およびテキストデータの編集作業を行う。このための作業時間を100時間とし、20万円を人件費とする(200時間×1000円)。 このほかにも、データ、アルバイトの雇用費用を見込むが、その部分は大学の研究費を充てることを予定している。
|