研究実績の概要 |
本研究プロジェクト最終年に当たり、前年度に引き続き3本の論文に関し、国際学会報告、国内研究会での報告などを通して分析の精緻化、論文の完成作業を進めた。 日本企業のクロスボーダーM&Aに伴う株価のイベントスタディを行ったIngs and Inoue論文については、クロスボーダーM&Aが国内M&Aよりも高い評価を受けていること、その背景には成長力の低下した企業による海外成長市場の獲得への株式市場の期待があることを発見した。 日本企業によるM&A後の長期の財務・株価パフォーマンスを検証したInoue, Yamasaki, and Nara論文は、学会等のコメントに対応しデータを追加し精緻化を進めている。主な発見事項は、日本企業の海外M&Aにおいて必ずしも株式市場が当初期待した価値創造が実現しておらず、平均すると株主価値はブレークイーブンで収益性はやや減少する傾向を持ち、英米の買い手に比較して収益性に関しては劣後することである。 アジアおよび欧米主要国の企業間のクロスボーダーM&Aにおける企業行動と企業文化の関連を分析したBremer, Hoshi, Inoue, and Suzuki論文は、不確実性回避の企業文化の下で海外M&Aが抑制されること、一方でM&Aの実現の確実を期すため高い買収プレミアムを支払うことを発見した。日本は不確実性回避傾向の特に強い国であり、本論文の結果は日本企業の行動を適切に説明する。 第1のIngs and Inoue論文および第3のBremer et al論文はすでに海外学会報告を経て、海外専門誌に投稿している。また、第2のInoue et al論文と第3のBremer et al論文は経済産業研究所のRIETI Discussion Paperに収録された。
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