研究課題
我が国の公共部門・企業部門を併せたIT投資額は24兆円にのぼるという試算もあり、実にGDPの5%近くになる。 しかしながら、ミクロレベルでのIT投資の効果についての財務データを使用した実証研究は僅かであり、企業や官庁などの組織単位では信頼できるベンチマークもないままにIT予算が計上されている。IT投資の効果の認識が比較的容易である企業部門における申請者等による一連の実証研究によって、IT投資と経営成果との関係は組織特性に大きく依存することが、アグリゲイトレベルでは明らかにされた。 本研究課題では、IT投資・組織特性 ・経営成果のそれぞれを下位詳細レベルで分析することにより、 高い経営成果を確保するためのIT投資のパターンと組織IQ要素との関係を探求する。併せて、データベースを整備拡張するとともに、海外における同様の研究と比較することにより我が国の特徴を明らかにすることを目的とした。最終年度には、二つの重要な結果が得られた。まず、当初目的とした詳細な組織特性とIT投資・経営成果の関係について実証分析の結果、(1)外部情報認識、内部知識流通とIT投資とは、補完的な関係にある、(2)組織フォウカス、継続的な革新とIT投資とには、有意な関係は見られない、(3)効果的な意思決定機構とIT投資とは、代替的な関係になる、ということが明らかになった。特に3は重要で、ITによって自動的に権限委譲や分権化が進む訳ではなく、むしろ、IT投資とこれらの組織変化が代替的であるという、通念に反する結果を得ることができた。二番目に、研究期間中に当初計画しなかった経済センサスの利用が可能になったことにより、最終年度に経済センサスデイタを用いた分析法の研究を行い、新たなタイプの研究計画の実現性を確認して、28年度科研費申請につながった(その後、この新しい研究計画に基づく申請は採択された)。
日本企業のIT投資と組織能力との関係についての分析結果について、文化特性の影響の可能性をオックスフォード大学日産日本学研究所の Roger Goodman 教授と検討し、その成果は、共著論文として PACIS 2016 に投稿・採択された(成果欄参照)。
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Journal of the Japan Society for Management Information
巻: Vol.24, No.2 ページ: 175-190