研究課題/領域番号 |
24530431
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 京都女子大学 |
研究代表者 |
西尾 久美子 京都女子大学, 現代社会学部, 准教授 (90437450)
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研究分担者 |
川端 勇樹 国際大学, 国際経営研究科, 講師 (00614702)
坂本 理郎 大手前大学, 現代社会学部, 講師 (40449864)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 人材育成 / 事業システム / 地域基幹産業 / 技能形成 / キャリア / 造船 |
研究概要 |
平成24年度は、まず、先行研究のレビューを関連する分野(経営学、社会学や教育学、造船工学)に視野を広げて丹念に行い、本研究の学術的意義を確認し分析の枠組みを固めた。また、先行研究のレビューをふまえて、若手や中堅人材の技能獲得のプロセスとoff-JTやOJTとの関係、技能獲得を個人がどのように意味付けて今後のキャリア形成における個人の成長につながるのか、さらに人材育成と事業システムの関連性に関して、概念的定義および操作定義を固めた。 調査に関しては、因島技術センターで実施されている新人向け技能研修、専門技能研修の異なる研修の指導員、研修を受けている研修生、研修生を送りだす企業の人材育成担当者に、研修を通じて獲得された技能に関してインタビュー調査を行った。また、研修の参与観察も実施し、どのような技能をどのような研修のプロセスを通じて獲得していくのかを明らかにした。また、技能の獲得に関して、技術センターの研修と現場での業務経験との関連性について、当該研修を修了した複数の造船業従事者と企業の人材育成担当者にインタビュー調査をした。 さらに、今治と相生の技能センターで実施されている中級技能研修の参与観察調査を行った。因島のセンターと同様に、研修の指導員、研修を受けている研修生、研修生を送りだす企業の人材育成担当者に、研修を通じて獲得された技能に関してインビュー調査を行い、比較研究のためのデータを収集した。 因島技術センターの事例に関して、人材育成という共通の目的のもとに地域の中小事業者が連携し、指導員を社内から派遣、運営に関して地方公共団体や造船関連の業界団体の支援を積極的に得て継続的な仕組みとして構築していること、それが地域の技能レベルを維持・向上させ、地域の競争力につながっているという発見事実を明らかにした。この成果を海外の学会で報告し、広く海外の研究者と意見交換をした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では4つの目的を設定しているが、平成24年度はこれらのうち3つについて、順調に研究を進めることができた。したがって、おおむね研究は順調に進展していると評価する。 具体的には、地域基幹産業における人材育成の新しい枠組みとして平成11年に設立された因島技術センターの今日までの歴史的な経緯を明らかにし、設立当初から現在までの研修の内容とその技能育成の実状について、調査を進めることができた。さらに、研修の参与観察調査や研修の指導員、受講生、研修を当初計画した関係者などからもインタビュー調査をすることができた。 次に、2点目の目的である技能研修を修了した研修生たちのその後のキャリア形成については、因島地区の複数の企業の協力のもと、研修を修了した複数の若手から中堅の社員や指導関係者にインタビューを行い、担当職務に応じた技能研修の効果についてデータを集め、考察することができた。因島地域の企業から協力を得られたことは、非常に大きな成果であった。 3点目の目的である、国内の他の複数地域の技術センターの研修内容とそれぞれの地域の現場で実施されている技能形成の実状の把握については、今治と相生という2地域のセンターの現地調査を行い、これらのセンターの運営にかかわる複数の中核企業の技能育成に関する責任者や研修の受講生、また地方公共団体の運営関係者などにインタビュー調査を実施することができた。当初予定した以上に順調に、調査対象のセンターを増やし、協力を得ることができ、実際の研修についても参与観察調査をする機会を得た。この点では、大きな進展があった。 ただ、4つ目の目的とした海外の新興国の造船業の事例調査については、本年度は情報収集はできたが、実際に現場に赴くことはできなった。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、以下の3点について、研究を推進していく予定である。 まず、国内地域センターの調査については、因島技術センターは平成24年度の調査で得られたデータおよび分析結果に加え、他の地域の技術センターの調査結果を踏まえて、因島地域における造船業に修業する若手従業員の技能獲得のプロセスを、より詳細に明らかにする。また、企業の生産性と技能の関連性について地域の複数企業の経営トップ層や人材育成責任者、行政関係者へインタビュー調査を行う。 次に、国内複数地域の技術センターの比較研究について、平成24年度調査で得られた今治や相生のデータおよび分析結果に加え、今年度は長崎や東日本等の技術センターに調査を実施し、国内複数地域の基幹産業の造船業に修業する若手従業員の技能獲得のプロセスを明らかにする。さらに、技能形成と企業の生産性との関連性について、当該地域の複数企業の経営トップ層や人材育成責任者、行政関係者へインタビュー調査を行う。 3点目として、海外の造船業の人材育成に関する調査に関する計画を進める。日本企業が進出し友好的に連携構築している東南アジア諸国(インドネシア・ベトナム・シンガポール等)の造船業で、力が注がれている技能形成や実施されている人材育成制度の実態、それらが生産性に寄与しているのか等、人材育成と事業システムの関連について調査する。 これらの調査結果をもとに、地域基幹産業の人材育成と事業システムについて、明らかにしてく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度の研究費の使用計画としては、まず、調査のための旅費が挙げられる。具体的には、国内の調査地域として、因島・今治・相生など昨年度協力が得られた地域の技術センターへの継続的な調査実施と、長崎や東日本などの新たな地域の調査を実施するための旅費である。さらに、海外の地域基幹産業の人材育成の実状を調査するための旅費への使用も計画している。また、研究成果をまとめて国内外の学会で発表することも予定しており、そのための旅費にも使用する予定である。 次に、収集した資料やインタビューデータの入力等の作業のための謝金、造船に関する専門家や人材育成の実状に詳しい専門家への調査協力の謝金への使用も予定している。 先行研究のレビューのための図書や、データ分析のためのソフトや記録のための電子機器などを購入するために、物品費への使用も計画している。
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