最終年度は,ソーシャル・ビジネスおよびクロスセクター型協働の中でも,インクルーシブ・ビジネスに焦点を当てて,事例研究および理論的検討を行った.事例郡を2軸のマトリックスで,下記のように整理した.一軸は,BOP層との関係構築の方法で,生産者として育成・取引するフェアトレード型,主として消費者としてとらえアクセス可能にするサービス提供型という分け方である.もちろん,事業のバージョンが進むにつれて,両者ともに企業とBOP層は多様なスタンスで関係構築を模索するようになるが,起点の関係性で分類している.またもう一軸は,事業の性質によって,本業派生・移転型と新規事業型とに分けた.これらの4象限の各事例を分析するとともに,企業の推進部署による検討も重ねた.CSR部先導型と事業部先導型である. 以上の複数比較事例分析によって,いくつかの発見事実が見出された.一つは,フェアトレード型は,他の要因と無関係に,事業推進のハードルが相対的に低く,協働の組み方も収益性の確立においても,またインセンティブ設計に関しても,無理のない体制をとりやすい.これは,フェアトレードの普及とともに,型や方法が精緻化されてきていることと,規模の大小問わずセットアップしやすい点があげられる.一方,サービス提供型は,収益化とインセンティブ設計ともに多くの問題を抱えているケースが多く,特にCSR部先導型かつ新規事業型の推進力の弱さが際立った.BOPペナルティの存在に加えて,経営トップ層の理解といった点のハードルが散見された.また協働パートナーとの関係構築についても,その実態は支援型の域を出ず現地において柔軟な対応ができていない状況が把握できた. しかしながら,これらはまだ仮説の域を出ず,今後定量調査で分析する必要性を強く認識して,そのための準備も,この最終年度後半から着手している.
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