本年度は、投資家のセンチメントと初期収益率の関係に着目した研究を実施した。応募倍率をセンチメントの代理変数として用いた。応募倍率を被説明変数とする分析では、機関投資家は、マーケットの状況、企業のファンダメンタルズやアンダーライターの名声といった要因を総合的に考慮して新規公開企業に対して投資を行っている状況を確認することができた。一方、個人投資家については、企業やアンダーライターに関する情報を重視しておらず、マーケットコンディションの影響を受けやすい傾向がみられる結果を得た。
研究成果の発信としては、証券経済学会第84回全国大会において「新規株式公開における機関投資家の入札行動と初期収益率―中国の新興市場を対象とする実証研究―」の題目で研究報告を実施した。
上記以外の研究期間全体の研究成果の主要な点は以下のとおりである。創業板市場における過小値付けの水準は、先行研究で報告されている上海証券取引所および深セン証券取引所の主板市場(メインボード)における計測値よりも小さい。創業板市場における過小値付けの水準が小さい理由として、公開価格決定日から売買開始日までの日数の短縮、公開株式の応募倍率の低さ、公開価格設定時のPER(株価収益率)の上限の撤廃、が考えられることを実証研究にて指摘を行った。
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