研究課題
本研究の目的は,日本のマンガビジネスのグローバル展開において,シナジーを生み出す国際間の事業間調整を解明することである.最終年度である平成26年度には,前年度までの調査で明らかになったグローバルな事業間調整に関して,補足的な聴き取り調査を行い,分析結果を論文にまとめるとともに国際学会で発表した.研究で明らかになったことは,事業間調整を行う前提として,グローバル展開のタイミングを同時にする,あるいは国ごとに変えるという2つの方法があることである.国ごとに作品や商品の販売時期が異なる場合,後発の市場では海賊版による逸失利益が大きくなる.海賊版のリスクは,インターネットの普及によってさらに大きくなっている.このリスクを回避するためには,グローバル展開のタイミングを一致させることが重要になる.しかしながら,世界同時展開を阻害する2つの要因がある.1つめの要因は流通慣行の違いである.特にテレビアニメでは,放映頻度が国によって異なるため,同時にスタートしても,頻度の高い国では本国である日本よりも早く終了してしまう.2つ目の要因は文化の違いである.コミックやアニメの場合,各国の言語に翻訳するだけでなく,国によって規制されている表現等が含まれていないかどうかをチェックし,含まれていれば修正等の作業が必要になる.つまり「ローカライズ」にかかる時間を考慮すると,グローバルに同時展開することは困難になる.調査の結果,世界同時展開を実現している作品はほとんどなかったが,それに近づくための方法として,一元管理と海外子会社への権限委譲を進めている企業の取り組みが明らかになった.作品に関わるすべての事業に関しては日本本社が国内外の事業展開を一元的に管理する一方,ローカライズに関しては海外子会社に権限を委譲することで,作品のグローバルな市場規模を拡大させているのである.
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (1件) 学会発表 (1件)
Discussion Paper SeriesA, Hokkaido University
巻: No.2015-280 ページ: pp.1-16