本研究は、1990年代から2000年代初頭にかけて、日本が急速に国際競争力を発揮するようになった機能性化学産業における製品開発システムの形成過程および競争優位の源泉を明らかにすることにある。歴史的視点による事例研究のアプローチを採用し、他の製品・産業との比較を行いながら、同産業の特徴を明らかにすることが狙いである。最終年度である本年度は、機能性化学企業・製品を対象とした調査を進める一方で、これまで蓄積してきた事例を取りまとめる作業を行った。個別のケース作成にあたっては、史料的な価値を考慮して製品開発システムの形成過程を可能な限り詳細に記述するよう心がけた。作成したケースの横断的な分析を行うに際しては、機能性化学産業の製品開発の特徴をよりクリアに説明する枠組みの構築を目指した。機能性化学品の大半は産業財であることから、その製品開発システムの形成にあたっては、顧客との関係が重要なポイントとなっている。そこで本研究では、特に顧客関係に注目した分析を行った。直接の顧客企業・産業との関係に加えて、直接の顧客の先にいる顧客(顧客の顧客)を視野に入れていることが本研究の特徴のひとつである。研究成果の発表に関しては、機能性化学品の1つである医薬品の製品開発の特徴を産業間比較の視点から説明する分析枠組みを提示した論文をAnnals of Business Administrative Science誌に発表した。
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