研究課題/領域番号 |
24530452
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
太田 与洋 東京大学, 産学連携本部, 教授 (00422460)
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研究分担者 |
筧 一彦 東京大学, 産学連携本部, 研究員 (90345116)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 産学連携 |
研究概要 |
本研究は、現在の産学連携共同研究が一企業対一研究者に留まることが主流であり、結果として社会的な課題や新しい市場を切り開くようなインパクトの大きなイノベーションに繋がり難いという限界があり、それを超えるものとして「多対多型産学(官)連携」モデルを実装しながらその戦略的組織デザインの整理を試みるというものである。 平成24年度は格好の実証の場を構築することができた。経済産業省の「産学連携イノベーション促進事業」が8月に公募となり本研究者らが提案した「産学公民連携による被災過疎地の持続的発展を促進するイノベーションモデル創出事業 」(代表:黒倉壽教授、東京大学大学院農学生命科学研究科、平成24年~26年)が採択された。本事業は、震災前から典型的な過疎地であり、津波被害により崩壊した被災地岩手県大槌町と連携して、地域経済・社会・文化の復興、再生を目指すものである。そのために、林学・水産学と老人学・情報工学を軸に多様な専門家と企業が参画し、行政と住民の協力を得た新たな産学公民連携体制を構築する。そして新しいアイデアに基づく技術・サービス・ビジネスモデルの開発実証を新産業・雇用創出につなげ、被災地や他の過疎地の持続的発展に貢献する汎用的なイノベーションモデルの創出を目指そうとするものである。5部局研究者約20名、参加企業35社、町行政や地元住民が参加する。本研究の関心である多対多型産学連携の組織マネジメントの実証的研究の場として取り組める。多様なステークホルダーを如何に組織するか、産業界にとっての持続的な動機の付与、具体的な課題・目標の設定、専門分野の著しく異なる研究者の連携、町行政などステークホルダーとの調整、マネジメント・推進の設計、リーダーシップ論など本研究の実証と考察の場となる。 なお、本研究の起点として課題の所在を明らかにするために学会発表を2件行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の開始時の論点整理を行い学会で問題提起した。多様な産学連携共同研究の差異を明確にするためのツールとして「産学官連携創出マトリックス」モデルを発表した(文献1)。産学連携共同研究は通常、「シーズとニーズのマッチング」として簡略化しすぎている。例えば、企業側ニーズの観点でいえば、生産技術に関わるニーズ、次世代製品を目指す要素技術開発を含む製品技術開発ニーズ、さらに、将来の市場を狙ったニーズもある。一方、大学側のシーズには、生産技術や実用化に近い部分のシーズと、新しい原理の発見・確認・応用に注力している研究者の生み出すシーズがある。一対一共同研究で組める場合もあるがそれではできないものがある。「既存のシーズとニーズのマッチング」では語れないものがある。産学連携創出マトリックスは、これらの議論を明確化できる有効なツールであることを示した。同じく「一対一共同研究を超える多対多型産学連携」(文献2)では、今回の研究対象としてあげている「多対多型産学連携モデル」と近いERC(Engineering Research Center)の調査を進めて、そのモデルと効果の整理を行った。技術開発ではない社会的な課題を解くのに有効なモデルの構築を目指す本研究の起点を固めた。 本研究申請時には想定されていなかったが、先述の経産省の産学連携イノベーション促進事業に多対多型産学公民連携モデルが採択されたことは実際の研究開発を推進しながら、実務家として産学連携マネジメントの論点抽出・整理、理論化をできる場を得たことになる。 学会発表 ①『産学官連携創出マトリックス』、太田与洋、研究・技術計画学会、年次学術大会、27(2012)、pp228-232 ②『一対一共同研究を超える多対多型産学連携』太田与洋、増位庄一、峯崎裕、貴志万里子、筧一彦、研究・技術計画学会、年次学術大会、27(2012)、pp839-843
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今後の研究の推進方策 |
「産学連携イノベーション促進事業」で採択されている「産学公民連携による被災過疎地の持続的発展を促進するイノベーションモデル創出事業 」を産学連携専門家として支援していくと同時に、これを実証の場として活用し、多様なメンバーと議論を重ねマネジメント上の課題の抽出と論点整理と理論化を進める。 本事業は産学連携としてユニークな点を持っている。①首都圏にある大学と既存大手企業のネットワークを東北の被災過疎地である岩手県大槌町に持ち込み町行政、町住民との産学公民連携を実行しようとするものである。ステークホルダー間には主従関係も明瞭な指示・服従関係もない。多様な関係者を如何に組織して成果を出していくか。②大学研究者は多様な専門分野を持っている。関心が異なる多数の企業が参加している。モチベーション維持を如何に設計するか。③大槌町は震災前から、人口減少が著しい高齢者の占める割合の大きい町である。主たる産業は水産業などであり、製造業を中心として組み立てられた産学連携モデルとは異なる事案が予想される。④震災復興を契機に、地域の新生に向けた貢献が必要とされる。生業創出、第1次産業の高付加化価値化、高齢者も働ける社会に向けた産学公民連携モデルの創出が必要になる。総合的な取り組みを進めるマネジメント力が必要となる。 平成25年度から平成26年度前半までは、このユニークな産学連携の実証の場として参加メンバーとの議論やフィードバックをもとに課題の抽出や論点の整理に努める。3/11の他の被災地や、過去の他の震災地点の大学の支援や連携も必要に応じて調査をする。 平成26年度後半からは産学公民それぞれのステークホルダーへのインタビューやアンケートによりさらに調査を進める。一つの組織マネジメントモデルとしてまとめる。
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次年度の研究費の使用計画 |
「産学連携イノベーション促進事業」としての補助金の使途は研究開発費中心に厳密に管理される。本科研費は、本研究者を中心とした産学連携の組織マネジメントの実証研究と理論化に使用され、混同して使用されることはない。 ①地域イノベーションを志向する産学公民連携、地域産業、組織論、震災復興等に関する図書購入費 30万円 ②学会や研究会、多対多型産学連携、地域活性化、震災復興に関する調査旅費 70万円 ③調査研究活動を進める上で必要な消耗品 40万円 ④必要に応じて海外の実情調査 50万円
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