「多対多産学連携」の実証のフィールドとして、本補助事業実施中採択された経産省「産学連携イノベーション促進事業」の「産学公民連携による被災過疎地の持続的発展を促進するイノベーションモデル創出事業」(平成24年~26年)で運営代表者となったことによりこの事業を観察することにした。 岩手県大槌町の震災復興に際して【将来を見据えて、産学が新しいアイデアや考え方を提案・実証・地域の賛同者を募り伴走し、そして新しいことを興す】というビジョンの活動である。研究者は5部局にまたがり参加企業は地元企業12社を含む57社であり地元の住民、町行政と連携する者であり技術開発とは異なる「多対多」の構造で「産業の復興・振興」と「生活の復興・振興」の2分野で7個のテーマを推進する組織デザインをした。必要な要件としては以下がある。①7つのチームはそれぞれ平等な同僚(ピア)であり指揮命令権が存在するわけではない。②大学研究者が主査であり地域住民の参加もあるプロジェクト連合である。産学公民と異質のステークホルダー間にはコンフリクトが生じやすい。③限られた期間に成果を出さなければならない。それに備えるために、大学と現地側にマネジメント専任をそれぞれ配置した。その役割は①産学―公民間のコンフリクトの処理、②内部の情報共有、対外的な説明責任としての情報発信、③新規企画、④進捗・管理チーム間調整、⑤資金配分・管理などであった。この体制で活動したが、課題として以下が認識できた。①被災地には多くの「善意」、「正義」が集中しておりこのコンフリクトマネジメントが必要である。②地元賛同者あるいは承継者の発見できない場合がある。③産学側に被災地の活動を展開するノウハウの蓄積が必要になる。今後も、得難い現場体験を基に社会的な課題解決に向けた「多対多産学連携」について引き続き考察していきたい。
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