最終年度の平成28年度は、主にこれまでの調査結果をとりまとめる作業をおこなった。 まず雇用の境界に影響を与えると想定される本社人事部門の影響力について、前年度に構築したパネルデータを用いて、人事・経営企画・財務担当役員がいる企業の比率や当該職能の兼務役員のいる企業の比率等を算出して過去25年間の変化を検討した。分析の結果、経営企画・財務担当役員のいる企業の比率がほぼ変わらないのに対して、人事担当役員のいる企業の比率が大幅に減少しており、人事部門の影響力が低下していることが推察された。また、経営企画・財務担当役員を兼務する人事担当役員のいる企業の比率が上昇しており、人事部門の影響力が他部門の影響力により依存してきている可能性が示唆された。前年度実施した質問票調査の分析結果からも、人事部門の機能範囲が以前より拡張しており、他部門との連関が高くなっていることが示された。 また雇用の境界に関連して、正規社員と非正規社員の双方の人事管理を把握する視点として、組織の柔軟性に注目して検討を行った。機能的柔軟性として人材育成施策を、数量的柔軟性として非正規社員比率と雇用調整施策を取り上げて、企業調査データを分析した結果、正規社員による機能的柔軟性と非正規社員による数量的柔軟性に代替関係があり、当時の日本企業が正規社員を通じた機能的柔軟性を重視する企業群と、非正規社員を通じた数量的柔軟性を重視する企業群に分化している可能性が示唆された。但し、正規社員による機能的柔軟性と数量的柔軟性に補完関係が、さらに非正規社員による機能的柔軟性と数量的柔軟性に補完関係があることから、上記二つの企業群はそれぞれ正規社員を通じて機能的柔軟性だけでなく数量的柔軟性をも確保しようとする企業群と、非正規社員を通じて数量的柔軟性だけでなく機能的柔軟性をも確保しようとする企業群であることが推察された。
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