研究課題/領域番号 |
24530456
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
二神 枝保 横浜国立大学, 国際社会科学研究科, 教授 (10267429)
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研究分担者 |
村本 由紀子 東京大学, 人文社会系研究科, 准教授 (00303793)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 日欧比較研究 / 職業教育 / 職業訓練 / エンプロイアビリティ / キーコンピテンシー / キャリア教育 / 人的資源管理 / 産学官連携 |
研究概要 |
2008 年秋の金融危機以降の経済減速に伴って企業の採用状況は悪化し、東日本大震災による企業活動等停止の影響が雇用にも広がる中、日本ではひとつの企業の枠を超えた職業教育・訓練の構築、特にキャリア教育による若年者のエンプロイアビリティとキーコンピテンシーの開発が緊急課題となっている。エンプロイアビリティ(employability)とは、職業能力、仕事能力であり、ひとつの企業の枠を超えて労働市場で通用し、雇用されうる能力である。キーコンピテンシー(key-competencies)とは、OECDによれば、社会・文化的、技術的ツールを相互作用的に活用する能力、多様な社会グループにおける人間関係形成能力、自律的に行動する能力といった3つのカテゴリーから構成され、単なる知識や技能だけではなく、技能、態度を含む心理的、社会的なリソースを活用して、特定な文脈の中で複雑な課題に対応することができる能力であり、エンプロイアビリティの基盤となる。本研究では、まず日欧の高等教育機関のキャリア教育によるエンプロイアビリティとキーコンピテンシーの開発の現状と課題を検討した。現在では、企業のみならず、政府や高等教育機関との連携を視野に含んだ職業教育・訓練が不可欠であるが、その意味でヨーロッパの大学のキャリア教育、産官学連携の実情等を調査し、エンプロイアビリティ、キーコンピテンシーの開発を比較する本研究は、日本にとって示唆に富む成果となる。次に、日欧企業の従業員と人事担当者への調査を実施し、職業教育・訓練の実証分析・日欧比較を行った。その際、Decent work(働きがいのある人間らしい仕事)の視点からも若年者のエンプロイアビリティとキーコンピテンシーの開発を検討している。ディーセント・ワークの視点からこれらを分析する研究は、これまでにはない研究であり、オリジナリティの高い、国際的に貢献できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第1年度は、まず日本とヨーロッパ(主にフランス、ドイツ、スイス、イタリア)の大学、ビジネススクール等を訪問して情報を収集し、インターンシップや寄付講座等産学官連携の実情を検討した。特に、若年者のスキルやエンプロイアビリティ、キーコンピテンシー、職場規範の開発状況を明らかにした。例えば、ドイツのビジネススクールのWHU(Wissenschaftliche Hochschule fuer Unternehmensfuehrung)では、インターンシップが卒業認定単位に入っており、採用に繋がるケースもあり、企業による大学の寄付講座も多く、産学連携が実現している。2009年より企業と大学のコラボレーション教育の制度をもつ大学、いわゆるBerufsakademie,Duale Hochschuleが設立され、学生は大学で理論的な教育を受けながら同時に、企業で実習を受けることが可能になった。学生は実習期間中、企業と訓練契約を結ぶが、約80%の学生は卒業後も同じ企業に就職する。次に、日本とヨーロッパの制度的、文化的相違も明らかにしつつ、職業教育・訓練の日欧比較を行った。ヨーロッパの大学改革のボローニャ・プロセス(Bologna-process)が、大学のキャリア教育、企業の人材開発システム、人的資源戦略に与える影響を分析した。日本では、特に企業内の職業教育・訓練が重視され、新規学卒者の採用と企業内長期的人材開発が一般的である一方、スイスやドイツでは、デュアルシステムが一般的で徒弟制度(apprenticeship)が重要な職業教育・訓練手法だった。ボローニャ・プロセスの中、こうした傾向の変化を分析した。以上のことから、企業のコア人材のスキル、エンプロイアビリティ、キーコンピテンシーの開発の日欧比較を行った。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、個人のキャリア形成やエンプロイアビリティ、キーコンピテンシー、職場規範等に注目する。スイス、ドイツ、日本の企業の従業員へのアンケート調査を行い、個人のスキル、職業能力、キーコンピテンシー、職場規範、職業意識等がどこで(大学、現在の企業、以前勤めていた企業等)身に付くのかを分析し、個人のキャリア形成、エンプロイアビリティ、キーコンピテンシーの視点から職業教育・訓練の日欧比較を行う。 また、スイス、ドイツ、日本の企業の人事担当者を対象にした企業訪問調査のデータに基づいて、人材開発システムの実証分析・国際比較を行う。 さらに、産業別に企業のコアコンピタンシーに必要なスキルをもつ従業員の採用、エンプロイアビリティとキーコンピテンシーの開発、人的資源管理戦略の選択を分析し、職業教育・訓練の国際比較を行う予定である。 本研究は、ヨーロッパと日本の企業の従業員と人事担当者へのインタビューとアンケート調査に基づいた実証研究を特色とする。ヨーロッパ各国と日本の企業が、それぞれ従業員のスキルを採用・確保するために、どのような人的資源管理戦略、採用管理を選択するのか、どのように従業員のスキルやエンプロイアビリティ、キーコンピテンシーを開発するのかを日欧比較・分析することは、今後日本の職業教育・訓練を構築する上で、とても意義がある。実証研究に基づいた本研究の成果は、学界のみならず、実務界にも大いに貢献することが予想される。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は、アンケート調査で収集したデータを詳細に分析する。したがって、多変量解析のための統計ソフトを購入する予定である。また、データ分析による調査結果に基づいて英語論文を作成し、それを国際学会で報告し、国際ジャーナルに投稿する予定である。そのための英文校閲や国際学会への参加費、海外出張を予定している。また、アンケートで得られなかったデータ収集のために、企業の人事担当者を対象に追加インタビューを行う予定である。そのために国内よび海外出張も実施する予定である。
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