研究課題/領域番号 |
24530467
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
朴 泰勲 大阪市立大学, 人文社会系研究科, 教授 (50340584)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 生産のモジュール化 / BRICs / 補完的資源と互換的資源 / 現代自動車とVW / 生産システムの現地化 |
研究概要 |
現代自動車の中国と韓国における生産システムとサプライチェーンについて調査を行い、新興国における生産システムとサプライチェーンマネジメントに関する現状を把握できた。韓国調査では、現代自動車ブラジル工場のマザー工場となっている起亜自動車の外注組立メーカードンヒオートの工場について調べた。まだ、韓国南部の光州市にある起亜自動車の工場の生産システムと部品メーカーの産業集積について調査を行った。ここで明らかになった現代自動車の国内の生産システムはモジュール生産が中心であるものの、組合の現場支配力が強いため、モジュール生産による生産性があまり高くなかった点である。しかし、組合の現場支配力を避けるため、自動車の組立を一部外注しており、外注組立メーカーによる生産性の向上を図っていることが明らかとなった。 現代自動車は現場の組合が強いため、現在国内工場よりも海外工場の方が生産性が高い問題を抱えているが、このような問題を解決できる生産システムとしてドンヒオートのモジュール生産システムと工程別の外注が注目を集めている。生産工程ごとにモジュールで外注が行われ、生産工程ごとに生産性を競う仕組みである。このような生産のモジュール化は現代自動車のブラジル工場にも適応されているという事実が分かった。インド工場においても現代自動車はモジュール生産を図っており、BRICSにおけるモジュール生産方式が広く採用しているようである。ここで明らかになったのは企業の海外進出に必要なのは補完的経営資源より互換的経営資源が有効であり、補完的経営資源の場合は本国における開発と生産において重要であることが分かった。補完資源と互換資源は組織間協業を促進するとされてきたが、今回の調査結果によれば、互換的経営資源を取引相手から入手するため、必ずしも協業をする必要はないことが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年の目標としては現代自動車のインド工場とブラジル工場を訪問することが目的であったが、現地との交渉がうまく行かず、調査が実現できなかった。ただし、いろいろと交渉していく中で、平成25年度では現地調査のアレージを依頼できる担当者の名簿等を確保することができた。現代自動車の部品メーカーに対するアンケート調査ができ、現在それに基づく分析を行っている。この分析では自動車メーカーと部品メーカーが資源を蓄積するため、どのような協業関係を構築しているのかについて調査した。回収率はそれほど高くないが、組織間協業について詳細な質問項目を設けて聞いた結果、いくつかの作業仮説を構築することができた。理論的な枠組みの構築を行っている最中である。また、これを研究会等で報告し、様々なコメントを頂いた。このアンケート調査は英文論文としてある程度仕上げているが、投稿や論文の修正などに長い時間が予想される。 また、フォルクスワーゲンの調査は現地との調査アレンージができず、現段階で資料の収集を行っている。ただし、VWにエアコンを納入しているデンソーミュンヘンを訪れ、VWの開発と生産方式について調査することができた。また、VWの小会社であるアウディのインゴルシュタト工場を見学することができた。アウディの調査では工業団地にあるモジュールメーカーと部品を納入するブリッジを視察することができ、欧州におけるモジュール生産方式と部品メーカーの産業集積について調査できた。新聞等ではフォルクスワーゲンのモジュール開発について大きく取り上げられてきたが、実際自動車の開発のモジュール化は様々な制約があり、実際それを実現するのはそれほど簡単ではない。ただし、これまでの研究集積と少し新聞等の報道との乖離があるので、その実態について把握し、論文として仕上げる。
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今後の研究の推進方策 |
現代自動車は現在新興国市場では業績が上向いているものの、今回のウォン高と輸入車の攻勢で苦戦を強いられている。フォルクスワーゲンは中国市場と米国市場で高い成長率を成し遂げたものの、ヨーロッパ市場では不振であった。現代自動車とフォルクスワーゲンに関する調査をさらに深く調べ、新興国における現地化戦略と生産システムの比較を行う予定である。また、国際学会にもその内容を報告し、投稿作業を進める考えである。長いプロセスではあると思うが、地道に投稿と修正作業を行い、海外の学会紙に掲載ができるように努力する。また、海外の研究者との連携を図り、共著の論文の執筆も進めていく考えである。さらに、本研究が終わる段階で総まとめとして本の執筆を計画している。本では、企業の競争力優位を高めるため、どのような資源を確保し、それを現地化する際にどのように適用していくのかについて議論していく。今後もVWの開発と生産システムについて調べるため、ドイツを訪れ、部品メーカーの関係者とのインタビューを進めると同時に、BRICsにおける部品メーカーの関連会社を訪問できるように交渉していく予定である。 さらに、現在アメリカを中心に北米で起きているシェールガスとオイルが自動車産業の将来にどのような影響を及ぼすのかについても検討する計画である。近年、アメリカ国内ではシェールガス革命により、大型自動車への人気が徐々に上昇している傾向がある。今後、自動車産業のグローバルな再編と重なり、シェールオイルやガスは大きく自動車産業の開発と生産システムに影響を及ぼすと思われるので、これを主要なテーマとして取り上げ、研究を進めていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度では現代自動車のインド工場とブラジル工場を訪問する予定である。また、可能であれば、現代自動車の米国工場も訪問する考えである。海外調査の場合、現代自動車の部品メーカーの調査も含まれている。特に、現代自動車の海外工場の調査では、現代モービスのBRICsにおけるモジュール生産の実態についても詳しく調査する。中でも、インドでは軽自動車が、ブラジルでは小型車や中型車が中心であるため、部品メーカーの現地化戦略と生産システムにも違いがあると思われる。このような調査のもう一つの重要な視点として海外工場への支援を行っている韓国のマザー工場と現地工場との連携について調べる。また、現代自動車と起亜自動車の海外進出の違いについても調査をしていく予定である。VWの小会社であるアウディの調査ができたが、今年はVWの本社工場の見学とその部品メーカーについて詳細に調査することを目標とする。VWの本社工場はドイツの北部であるヴォルクスブルグにあるので、次年度ではドイツ北部地域における部品メーカーの産業集積について調べる。その調査のため、ベルリンに滞在しながら、調査を進める。また、投稿論文の英訳が終わったが、学会紙とのやりとりを続けるため、英文校正に費用を支出する計画である。さらに、トルコのイスタンブールで開催される国際学会等への参加する計画である。アメリカのAOMの年次大会に論文を投稿したが、受理されなかた。しかし、AOMのフロリダの大会には参加し、他の国の研究者との交流を広げる考えである。 また、現在ヨーロッパの部品メーカーの取引継続性と多角化についてデータを集め、統計処理を行っている。VWの部品メーカーがどのように多角化を進め、それが部品取引の継続に影響を及ぼすのかに関する作業仮説を仕上げ、論文として投稿できる段階まで持っていくことを目指す。さらに、この論文の英訳作業も同時に進めていく。
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