研究課題/領域番号 |
24530506
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 大阪産業大学 |
研究代表者 |
井上 寛康 大阪産業大学, 経営学部, 准教授 (60418499)
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研究分担者 |
齊藤 有希子(梅野有希子) 独立行政法人経済産業研究所, その他部局等, 研究員 (50543815)
中島 賢太郎 東北大学, 経済学研究科(研究院), 准教授 (60507698)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ネットワーク / 企業 / イノベーション / 国際情報交換 / アメリカ |
研究概要 |
本研究は,イノベーションに関わる個人・組織・地域のそれぞれのネットワークが,相互に与える影響の分析とその成長モデルの検証を行う.本研究では中心となるデータとして特許を用いる.したがって,個人は発明者であり,その間の共同発明によって個人のネットワークが形成される.組織としては,事業所や拠点のレベルと,それらがまとまった企業や大学などのレベルが考えられる.また地域については,都市や都道府県などのレベルが考えられる.これらのレベルは下位を内包する層的な関係にある.層的なネットワークが相互に与える影響を組織と個人を例にとり具体的に述べる.すでに交流のある組織間では新たに共同発明が起きやすいと考えられる.これは同僚による媒介や組織間の協力の枠組みの発達などによる.一方で上記の過程を逆にたどる形で,個人間の共同発明の積み重ねが組織間の交流の源泉である.このように個人のネットワークと組織のネットワークはお互いを刺激するフィードバックの関係にある.この過程をとらえることが目的である.本課題ではイノベーションが対象であるため,特許データを用いる.このデータから個人とその共願関係のネットワークを作成した.このネットワークには現時点で個人が200万人弱含まれる.また,個人が所属する組織や地域も特許データから得られ,組織・地域のネットワークを得た.たとえば,企業レベルのネットワークではノード数は約5万,リンク数は約10万である.組織については企業のレベルだけでなく,より細かい拠点レベルのデータの抽出も可能であり,これは我々独自のデータである.このネットワークにはノードが約7万,リンクが約13万含まれる.本研究は特許に基づくネットワークを基本とし研究を進めるが,他の大規模データとの接続も行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記研究の実績でその大半を述べてしまっているが,申請書に記した研究の目的では,データの構築およびネットワーク間の影響の分析となっており,それは研究実績そのものである.したがって,本研究はきわめて順調に推移しているといえる. 順調に推移した理由であるが,本研究で扱っているデータ,特許データや企業データなどの大規模データは,初めて用いる際にはマニュアルから推測されないデータの不備や扱いにくさがあるものであるが,我々は初めてではなくこれらデータに習熟していることから,きわめてスムーズに研究の本題,すなわち,包含関係にあるネットワークデータの構築およびその分析を行うことができたと考える.
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題は順調に推移しており,研究計画書にしたがって以下のような研究を推進する. 社会科学の分野では一般的にさまざまな分布に正規分布や指数分布を仮定している.しかしながら,ネットワークにおいてはべき分布と呼ばれる分布が数多くあり,特に本研究のネットワークはべき分布を持つと判明している.したがって既存のモデルではこのネットワークを再現できない.平成24年度の結果を踏まえ,ネットワーク同士が相互に影響しながらどう成長するのか,確率に基づくローカルなルールを策定し,ボトムアップにネットワークを再現する.このような非線形のモデルは統計物理学に多くの類型が存在するため,それを援用する.モデル検証時は,数理的一般解を得るのが望ましいが,シミュレーションによる検証も行い,研究を進めるうえでのリスクを避ける. またここまで説明を簡単にするため成長モデルのみを議論してきたが,逆に縮退による構造的もろさは現在特に重要な研究項目である.本研究で縮退が重要な理由は,災害や倒産で組織が欠けると,個人のネットワークが弱まり,翻って組織のネットワークが弱まるという繰り返し(カスケード)が起きるためである.この議論は層的ネットワークを考慮することで初めて可能である.すでに,適用課題は異なるが層的ネットワーク縮退の研究が報告され始めている. 米国USPTOおよび欧州EPOのデータに対して,これまで国内に適用してきた分析をすぐに行うことができる.その後国際比較によって新たな議論を行う.
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次年度の研究費の使用計画 |
初年度に使用しきれなかった額についての主な原因は,研究代表者がアメリカに留学中であったため,当初予定したいたほどにはアメリカでの発表に出張旅費が必要とされなかったためである. 初年度に予算の大部分を用いて,データの整備を行うことができたため,次年度以降については,主に会議での発表に係る旅費,我々の研究打ち合わせに関する旅費が主たる研究費の目的である.あらたなデータやその処理に必要なマシンの購入などはないため,その他の支出については消耗品のみになる計画である.およそ1回分の海外出張旅費が持ちこされているため,1件多く発表を行う予定である.
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