研究課題/領域番号 |
24530513
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研究機関 | 松山大学 |
研究代表者 |
掛下 達郎 松山大学, 経済学部, 教授 (00264010)
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研究分担者 |
童 適平 獨協大学, 経済学部, 教授 (20412421)
西尾 圭一郎 松山大学, 経済学部, 准教授 (20453368)
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キーワード | 金融機関 / 収益構造 / 競争力 / トレーディング |
研究概要 |
ニューヨークとシカゴで米国大手金融機関の業務展開と収益構造に関してヒアリングをおこなった。大手金融機関の国際競争力の源泉の1つは,彼らのグローバル・トレーディング力である。その背景にあるのは,大手商業銀行が持つ預金等の資金力や,決済システム・決済業務と考えられる。決済業務を有する大手商業銀行グループが,近年,幾つもの投資銀行業務において大手投資銀行を圧倒してきた。その実態をNYとシカゴで把握した。訪問先は,本科研取得前の2011年9月,2012年3月と同じくNY大手金融機関モルガン・スタンレーと三菱東京UFJ銀行NY支店,岩村聰樹 Managing Director等であった。それに加えて,新しくNY証券取引所(NYSE),Glenn W. Tyranski, Senior Vice President等,NYマーカンタイル取引所(CME Group,NYMEX),David L. Shuler, Managing Director,シカゴ連邦準備銀行,David A. Marshall, Senior Vice President等にもヒアリング調査をおこなった。 この研究では,まずNY所在の米国大手金融機関の再調査をおこなった。NYでは定点観測を続け,データ分析により,米国大手金融機関が本国のNY市場でなぜ競争力を維持し続けているかを考察した。その際に,日米大手金融機関がNY市場でどのような競争・補完関係にあるかを把握し,米国大手金融機関の競争力の源泉を抽出する準備ができた。 つぎに新たにシカゴで大手金融機関のグローバル・トレーディング力の背景にある決済の研究を担当するシカゴ連銀や,近年の決済において重要な役割を果たすシカゴ先物取引所の調査を始めることができた。 さらに日系大手金融機関や,日系新聞社米州編集総局等へのヒアリングをおこなうことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
まず,本科研取得前の2012年3月に,計画を前倒しして,ニューヨークで米国大手金融機関の業務展開と収益構造に関するヒアリングができた。これを皮切りに公表資料に加えて米国大手投資銀行の行動パターンを実証する準備をし,米国3大商業銀行の業務展開や収益構造と比較しパネル・データ分析ができることとなった。 さらに,科研取得後の2012年8~9月に,計画を1年早めて香港,上海,シンガポール等で外国銀行のアジア各国における業務展開と収益構造についてヒアリングができた。この3都市の支店等のヒアリング調査により,米系大手金融機関が本国だけでなく,なぜアジア諸国においても競争力を持つかは,やはりグローバル・トレーディング力が米系大手金融機関の国際競争力の源泉の1つと考えられるからだという感触を持つことができた。 2013年9月にもNYで定点観測を続けることができ,データ分析により,米国大手金融機関が本国のNY市場でなぜ競争力を維持し続けているかを考察した。その際に,日米大手金融機関がNY市場でどのような競争・補完関係にあるかを把握し,米国大手金融機関の競争力の源泉を抽出する準備ができた。 2013年9月の調査研究では,まず①NY所在の米国大手金融機関の再調査をおこなった。つぎに②新たにシカゴで大手金融機関のグローバル・トレーディング力の背景にある決済の研究を担当するシカゴ連銀(David A. Marshall, Senior Vice President)や,近年の決済において重要な役割を果たすシカゴ先物取引所の調査を始めることができた。さらに③日系大手金融機関や,日系新聞社米州編集総局等へのヒアリングをおこなうことができた。 今後もこの方向で実証研究とそこから示唆される理論研究を積み重ねて,米国大手金融機関の業務展開におけるトレーディング業務の意義を探っていくことが有効と思われる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は,当初の計画以上に進展しているため,新たに以下のような研究計画を考えている。研究の全体構想は,アメリカ大手商業銀行のOTD(originate to distribute;組成分配型)モデルの形成を,2014年9月のニューヨーク大手金融機関等へのヒアリング調査を嚆矢とし明らかにする。最終的には,1980年代以降における大手行のオフバランスシート取引による業務展開を把握する,ことである。 具体的な目的としては,①1980-1990年代のローン・セール,ディリバティブ,証券化という業務展開とは,貸付債権のリスクを第3者に移転する途であり,このリスク移転が各業務で段階的に開けたこと。②オリジネートされディストリビュートされた,アセット・バック証券は1990年代に,サブプライム・ローンを含むモーゲイジ担保証券は2000年代にOTDモデルを形成したこと,である。 1980年代以降における大手商業銀行の業務展開のほとんどは,オフバランスシート取引である。バランスシートに記載されないオフバランスシート取引は,BS(balance sheet;貸借対照表)分析だけでは明らかにならない。銀行の業務展開の全体像を把握するためには,BS分析だけではなく,オフバランスシート取引を含めた収益構造の分析,すなわちPL(profit and loss statement;損益計算書)分析が必要となる。しかし,1990年代まで詳細なPL(損益計算書)は公表されておらず,今世紀に至るまで本格的な収益構造の分析はおこなわれなかった。しかし,2001-2012年の収益構造の分析はすでに申請者によっておこなわれており,そこからある程度の推測が可能である。この推測を確実なものとするために,NY大手金融機関等へのヒアリング調査をおこない,大手行のOTDモデルにおけるトレーディング業務の意義を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究分担者の童が中国国籍であるため,アメリカ調査の際には,アメリカ大使館にビザを申請しなければならない。そのビザ申請のためには,訪問先を確定し,訪問先に招聘状を発行してもらう必要がある。しかし,昨年度は,訪問先を確定するのが遅れ,ビザを申請し取得する日数を確保することができなかった。本年度は,訪問先を早期に確定するとともに,観光ビザの取得も視野に入れて準備をおこなう。 次年度使用額については,昨年度,上記の理由で渡米できなかった,研究分担者の童が,アメリカ調査旅費として使用する予定である。
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