研究課題/領域番号 |
24530514
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 立命館アジア太平洋大学 |
研究代表者 |
藤井 誠一 立命館アジア太平洋大学, 国際経営学部, 准教授 (00623430)
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研究分担者 |
中村 友哉 広島大学, 社会(科)学研究科, 講師 (20618128)
江 向華 広島大学, 社会(科)学研究科, 助教 (60582393)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | イノベーション / 新製品開発 / プロダクト・チャンピオン |
研究概要 |
本研究の目的は、新製品開発に現れるキーパーソンに焦点を当て、関連するメカニズムを明らかにすることである。そのために、平成24年度の研究は、三つの方向性で進めた。 まず初めに、他の補助事業の研究成果に基づく仮説の学会発表である。この仮説は、2つの企業のインタビュー調査から得られたものであり、イノベーションにおける組織とプロダクト・チャンピオン(PC、以下PCと略す)との関係にかかわるものであった。それは、既存の基準や手続きが緩やかで定まっていない場合とそれが厳格に適用される場合では異なるタイプのPCが現れる、またそのPCが登場することでその後の組織の基準や手続きの方向性が影響を受ける、というものであり、ミクロとしての個人(PC)とマクロとしての組織には関連性があることを示した。当該発表において、参加者から研究テーマに対して強い興味を得ることができ、事前および事後に調査対象企業とも意見交換を行うことができた。 次には、同一企業内の複数のキーパーソン人材、の比較である。大手製造業の二人のPCに、数回にわたりインタビュー調査を行うことで、それぞれのイノベーションプロセスの各段階が4つに分かれることと、その段階において革新性の違いがPCに求められる役割と機能に影響を与える、との仮説モデルを構築した。 最後に、国際比較の基礎調査として、中国のイノベーション活動においてPCの存在の有無を検討するため、事前インタビューを実施した。対象となったのは、中国に本社のある3社であり、PCの概念を説明し共有した後、このような人材が存在しうるかどうかを、新製品開発の責任者に確認を行った。その結果、組織体制として日本企業のそれとはかなり異なるため、PCの存在の可能性は示唆されたものの、社会体制の違いなどから個人を特定することの困難さも見られた。中国国内でPCを探索するためのきっかけと課題が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
学会発表を通して、ミクロとしての個人(PC)とマクロとしての組織の関連性について、仮説ではあるものの基本となるモデルを提示した。参加者からは興味深い研究であるとのコメントが相次ぐと同時に、公式と非公式の定義に重要性、意思決定プロセスとの関わり、組織と個人のモチベーションの関係性、などについて指摘があり、このモデルのさらなる精緻化に貢献した。 さらにこれらの指摘に配慮しながら実施したインタビュー調査では、この仮説モデルをさらに推し進め、PCの出現に関係性を有するイノベーションプロセスを定義した。前述のこの4つの段階は、PCに求められる役割や能力に影響を与え、必要となるPCのタイプを規定する可能性があることが分かった。これは、イノベーションの大きさの定義にもかかわるものである。また、これら進化した仮説モデルを他企業のPC経験者に意見を問い合わせたところ、概ねこれらのモデルに合致していることが確認された。 これらの内容は、「分析枠組みに基づく深いインタビューの実施ならびに、複数企業への調査を実施する」といった、初年度に想定をしていた内容にほぼ合致している。 一方では、課題も明確になっている。まず、国際比較を行うことで日本型PCを明確化しようとした取り組みは、中国の特性から現段階での調査は困難であり、むしろ他の欧米の研究者が行っているこれらの国々のPCとの比較を行う方が効果的と考えられる。次に、PCが非公式から公式に移行する時期とその理由の探索がより深められる必要がある。さらに、プロセス以外の要因の探索である。先行研究では、組織特性(組織文化)や製品特性が指摘されている。最後に、日本型新製品開発の特徴との関連性の明示が未着手である。すでにおぼろげながら外観は捉えられているが、この明確化が求められる。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの達成度で述べた成果と課題をふまえ、次年度以降の方向性については、次の4つを考えている。 まず、進化した仮説モデルをさらに多くの企業に展開するべく、インタビュー調査を拡大することである。今年度実施した企業に続き、新たに3社を候補として予定している。これらの企業に、今年度の成果を提示しつつ、あらたな調査協力を依頼する予定である。 次に、今年度実施したのと同様の同一企業内の複数PCの比較する調査手法も継続が望ましいと考えている。今年度においては、プロセスとその新規性がPCの出現に影響を与えることが分かったが、別の企業においては、また別の要因が浮かび上がる可能性がある。一つ目のインタビュー調査拡大と並行して実施が可能と考えられ、その場合、前述の3社のうち1社において、この比較調査が可能ではないかと推察している。 さらに、研究成果の国際比較に基づく日本型PC像の明確化を進める必要が生じている。先行研究では、欧米を中心としてPCの研究が行われてきた。これらは基本的に、調査票による調査で実証研究を行っている。本研究では、現段階では日本のPC調査が初期段階にあるため、調査票調査よりもインタビュー調査を重視すべきであるとの基本姿勢をとっており、同じ手法での比較は行う予定はない。そこで、次の三つの段階で日本型PC像を明確にすることを計画している。その一つ目とは、先行研究からの知見に基づく仮説の立案である。続いて二つ目に、これらの仮説を上記の調査を進める中で検証を行う。また三つ目に同時並行して、実務家ならびに他国の研究者との議論を進める。 最後に、実務家との議論を活発化させる必要がある。この活動は、多くの企業との接点を持ち調査を拡大するという効果と同時に、PCの理論を実務家の中に普及することにも寄与すると考えられる。
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次年度の研究費の使用計画 |
今後の推進方策に基づき、次年度は次の3つの方向性を取り組み予定である。 まず、インタビュー調査の継続ならびに拡大実施である。今年度の結果として進化した仮説モデルを他社に適用するべく、他の候補企業に依頼を行い、そのうちの1~3社に対して、深く継続的なインタビュー調査を実施する。その場合、可能であれば並行して、同一企業内の複数PCの比較を実施する。このために必要となる旅費および宿泊費、ならびに必要となる一部備品を購入する予定である。 次に、先行研究から知見を得るために、必要資料の入手に経費を充当する。それらは、雑誌の複写や書籍や資料の購入である。 最後に、研究成果発信の下地作りを行う。これらは、二つの基本的な方向性がある。その一つは、国内の実務家と研究者の交流する会合への出席を行い、情報交流と意見交換を行う。研究代表者は一般社団として認められた研究会の理事に就任しており、本目的を達成するための備えが進んでいる。これは、実務家への調査拡大にも貢献するものと期待している。もう一つは、海外の学会への参加である。米国にある協会の主催する研究大会に参加し、海外の実務家ならびに研究者との交流を図る。これは、次年度にスピーカーとして発表するための準備でもある。これら発信の下地作りのために必要となる旅費および宿泊費、そして参加費に研究費を充当する予定である。
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