本研究では、負の外部性の内部化を、所有権理論、企業間連携の観点より検討し、戦略的な市場化・事業化の方法を導出することを目的とした。具体的には、社会的課題の解決という社会性を追いながら、他社との競争優位を生じる事業戦略のフレームワークを提起するものである。方法は、環境ビジネスを対象とし、フィールド調査により解に接近した。 実際の研究と成果は以下である。初年度は衣類のリサイクルシステムの考察を行った。その結果、衣類リサイクル市場を創造するには①負の外部性の確保②他者との連携③個別最適でなく全体最適の視点④社会の価値観の高揚、の4点がビジネスを遂行するフレームワークとして必要であることを導出した。 その際所有権を明確化する法制度化がリサイクルの推進に寄与するか否かという新たな疑問も生じた。そこで次年度は、自動車のリサイクルシステムについて調査を行った。自動車リサイクルの課題は①情報の非対称性の克服②動脈サイドの意識の向上であることが明確になった。 最終年度は、自動車リサイクルの戦略を明確にするために、食品容器リサイクル市場と自動車リサイクル市場の事例を比較し、社会的課題がビジネスチャンスを生む構造や、外部性の内部化の相違について指摘し、静脈市場の経済的・経営的役割についても明確にした。その上でイノベーションには、一社単体で行えるものと、産業全体で新しい供給源や生産方法を開発する場合もあることを導出した。 本研究の意義は、社会的課題の市場化が可能であることを、所有権理論を援用し構築した点である。社会的課題は営利にこだわらないソーシャル・エンタープライズ、ソーシャル・アントレプレナーの文言で扱われることが多い。その中で本研究は、社会性に配慮しながら、企業の競争優位も含有し、社会的課題の解決から新たな市場化を導いたところに重要性がある。
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