本研究の目的は、グローバル経済における生命保険会社の海外事業展開を中心とした経営戦略とそれに適合した組織形態を解明することである。そのために、既にこうした業務・事業の多角化が進展している米国の保険持株相互会社を取り上げ、その経営実態と組織変更の成果を、理論面と実証面から検証した。そして、新規事業展開とそれに適合した組織形態への転換が、生命保険会社の収益性、成長性、安定性へ及ぼす影響を統計データに基づき解析し、その成否の要因を分析した。 1996年の保険業法の改正以降、継続的に保険規制は緩和され、保険行政の質的な転換が進んだ。このなかで、相互会社組織の問題を取り上げ、規制環境の変化が相互会社の経営行動に及ぼした影響を検証した。そのうえで、エージェンシー理論の枠組みを用いて、経営改革のための制度的仕組みを包括的に論じた。それには、相互会社におけるガバナンス改革、資金調達手段の多様化、そして持株相互会社への移行などが含まれる。こうした国内の分析を踏まえて、代表的な米国の保険持株相互会社72社を取り上げ、その組織転換の経緯やその経営成果への影響、そしてその後の経営発展動向を詳細に事例研究した。得られた結論はつぎのように纏められる。まず、1990年代に組織変更した多くの会社では、早期に組織変更を実行するために、手続きの簡易な持株相互会社を選択している。そこでは、社員である契約者利益と所有者である株主の利害対立などの影響は過小評価されていた。また、こうした会社の中で、小規模なものは、その後他の規模の大きい保険会社の傘下に入ったものも多くみられる。M&Aなどに備えた組織変更を行った会社もあったことになる。以上のことを鑑みて、当時の保険持株相互会社への組織変更には、便宜的な要素も強く、また過渡的な選択であった可能性が強いことが結論付けられる。
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