考慮集合(消費者の意思決定に際して、最終的な選択対象となるブランドの集合)の形成メカニズムを考察した。まず、(1)考慮集合(および関連概念である選択集合、想起集合)に関する先行研究をレビューした後、(2)考慮集合に含まれるブランド数(考慮集合のサイズ)が、時間経過に従い周期的に増減する現象をパネル・データにより明らかにした。次に、(3)そのメカニズムを考察した。具体的には、(A)コスト・ベネフィット・アプローチにより、個人の内的変化(考慮集合の変化)を考察し、(B)ミクロ・マクロ・ループに注目し、消費者(ミクロ要素)の考慮集合の変化による市場(マクロ・システム)の変化(ミクロからマクロへの働きかけ)、同時に、市場の変化による考慮集合の変化(マクロからミクロへの働きかけ)を考えた。すなわち、個人の意思決定が他者や市場に影響を与え、さらに、他者や市場を通じて自身に影響を与えることにより、自身の行動(考慮集合のサイズ)が周期的に変化すると考えた。最後に、(4)本メカニズムを表現するモンテカルロ・シミュレーション・モデルを構築し、観察データに合致するよう仮想データを生成させた。もしシミュレーション・データが観察データに合致するならば、当該モデルは、考慮集合の周期的変化のメカニズムのひとつであることになる。両データは一致する傾向にあったものの、観察データの細かな振動を十分に追随できたとは必ずしも言い難かった。今後、シミュレーション・モデルの精緻化に加え、観察データをより適切に加工することなどにより、さらなる改善を図りたい。
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