研究課題/領域番号 |
24530540
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
藤岡 里圭 関西大学, 商学部, 教授 (00326480)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 百貨店 / 特選 / ラグジュアリーブランド / 奢侈品 / 東アジア / 国際情報交換 |
研究概要 |
2012年度は本研究の初年度であり、奢侈品市場の拡大と百貨店の関係を解明するため、主として日本市場を対象に下記のような基礎的調査を行った。 ①百貨店研究およびラグジュアリーブランドに関する文献研究。百貨店や総合商社が高度成長期、どのようにしてラグジュアリーブランドを日本市場に浸透させていったのかを考察した。当初の取引は、ライセンス契約や輸入が主流であり、輸入総代理店契約をラグジュアリーブランドと交わした企業がそのブランドの販売チャネルをコントロールしていたが、高度成長期以降、次第に委託販売へと移行し、ラグジュアリーブランドのパワーが大きくなっていったことが既存研究より明らかになった。 ②ラグジュアリービジネスにかかわる企業のインタビュー調査。①の文献研究の結果、個別企業の具体的な活動を取り上げた文献は非常に少ないことが判明した。そこで、①で明らかになった一般的な奢侈品市場の動向を裏付けるため、関連企業のインタビュー調査を行った。具体的には、大手百貨店、総合商社、専門商社、ラグジュアリーブランドのマネジャーやコンサルタントなどである。これらのインタビュー調査によって、文献研究のみでは解明できなかった百貨店の意図やラグジュアリーブランドの日本戦略が理解できたうえ、高度成長期には、ヨーロッパのラグジュアリーブランドが単独で日本市場に参入することは非常に困難であったことが解明された。 以上のような今年度の研究成果に基づき、経営史学会関西部会大会において、「日本における奢侈品市場の拡大と百貨店の役割」と題する発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、東アジアにおいて奢侈品がどのように消費者に受け入れられたのか、奢侈品の流通が既存の流通チャネルにいかなる影響を与えたのか、そして奢侈品産業の競争構造がどのように変化したのかを解明することである。 本年度は、この目的を達成するため、日本市場に焦点を当てて研究した。欧米のラグジュアリーブランドが日本市場に進出する際、百貨店のチャネルを利用し、百貨店の顧客に頼ったことにより、日本におけるラグジュアリーブランドの市場拡大に成功し、百貨店の戦後成長を導いたことが解明された。これは、本研究が順調に進展していることを意味している。また、この段階での中間成果を発表することができたのも、予定通りである。 一方、当初は今年度に日本の呉服店系百貨店に所蔵されている一次資料の調査を行う予定であったが、百貨店の内部事情により予定通りに実施することができなかった。しかしながら、1年間、百貨店の担当部署と話し合いを続けた結果、当初閲覧が難しいと思われていた資料まで2013年度以降に調査することが可能となった。その結果、調査開始は遅れたものの、当初の計画よりもより深い一次資料の調査が可能となり、より大きな成果が期待できることとなった。また、百貨店の一次資料調査が困難であったため、当初は2013年度に予定していた東アジアの奢侈品市場の調査を一部前倒しして進めた。日本の奢侈品市場と韓国の奢侈品市場の関連について文献調査を始め、2013年度早々に現地調査ができるよう準備したことは、予想以上の進捗であった。 以上のことより、研究全体としてはおおむね順調に進展しているといえよう。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究は、以下の3点を中心に推進する。 ①文献調査および一次資料調査を行う。初年度の文献調査に引き続き、今後は東アジアの奢侈品市場に関する文献やヨーロッパのラグジュアリーブランドに関する文献、さらには企業の国際化に関する文献を加えて調査する。また、日本の百貨店数社の一次資料を併せて調査することによって、文献調査やインタビュー調査によって導出された仮説について実証していきたい。 ②国内外のラグジュアリービジネスにかかわる企業のインタビュー調査を実施する。本研究の独自性は、インタビュー調査に基づく定性的アプローチにあると考えているため、今後はその対象を韓国や中国などの東アジアの小売業やヨーロッパのラグジュアリーブランドの担当者に広げる予定である。そして、より多くの関係者からインタビュー調査を実施することによって、個別企業の戦略を明らかにしていきたい。 ③海外での積極的な成果発表を行う。奢侈品産業の中心はヨーロッパであり、ヨーロッパの経営史を中心とした研究者がこの産業について研究している。海外での学会やワークショップで本研究の中間成果を積極的に発表することによって、彼らとのネットワークを構築するとともに、彼らの知見を本研究にも活用していきたい。そして、将来的には、ヨーロッパの奢侈品市場と東アジアのそれを比較研究しながら、より深く研究できる基盤をつくっていきたいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
2013年度は、東アジアにおいて奢侈品市場がどのように拡大していったのか、ラグジュアリーブランドの流通チャネルがどのように構築され、いかに変化してきたのか、百貨店は奢侈品市場の拡大にどのような貢献をしたのかを明らかにすることが目的である。これらを解明するため、以下のような研究費の使用を計画している。 ①文献研究のための物品費:上記のような文献研究を推進するために必要な図書、さらにそれを整理するためのハードディスクなどの物品を購入する予定である。 ②一次資料調査やインタビュー調査のための旅費および謝金など:株式会社三越伊勢丹(東京および千葉)、J.フロントリテイリング(名古屋)、髙島屋史料館(大阪)での一次資料調査のための旅費、国内外でのインタビュー調査のための旅費、これらの調査にかかわる調査補助者への謝金、調査資料を保存するための物品費、複写費などを予定している。 ③中間成果の発表のための旅費や論文校閲費など:2013年度はイギリスで開催されるCHORD(Centre for the History of Retailing and Distribution)において中間成果を発表する予定である。この成果発表のために必要な旅費、および論文作成に伴って必要となる英文校正のための費用などに研究費を使用したい。 なお、2012年度より繰り越した研究費(158,708円)は、当初予定通り、一次資料調査のための費用すなわち上記②の費用として使用する予定である。
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