研究課題/領域番号 |
24530549
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
荒井 耕 一橋大学, 大学院商学研究科, 教授 (90336800)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 病院 / 医療 / 質 / 採算性 / コスト / 管理会計 / 経営管理 |
研究概要 |
国立DPC関連病院に関して、DPC影響評価報告、医療の質の評価・公表推進事業、独立行政法人の第三者評価報告から、提供体制の質、提供プロセスの質、結果としての質、患者からの主観的な質にそれぞれ関わる質データを収集するとともに、公表財務諸表から各病院に対応する採算性データも収集し、質と採算性(コスト)との相互関係に関する分析のためのデータベースを構築した。また公立DPC関連病院に関しても、DPC影響評価報告と地方公営企業年鑑から、提供体制の質と結果としての質に関わる質データと採算性データを収集し、データベース化した。 それぞれの病院群に対するクロスセクション分析により、質と採算性との相関関係を分析したところ、両病院群においても、医療界の伝統的な二律背反観とは異なり、質と採算性(コスト)とは常に二律背反関係にあるのではなく、質や採算性の各側面の各要素(指標)により、相関が見られなかったり、むしろ相互支援関係(質が高いほどコストも低く採算性がよい)にあったりすることが判明した。このことは、質を維持しつつ採算性を改善したり、質を向上させつつ採算性を維持したりできる余地があることを示唆しており、医療サービスの質とコストとの同時統合的な管理を促進する要因となる。 また、今回構築したデータベースを活用して、国立DPC関連病院群に関しては、手術実施度や平均在院日数といった質とは異なる業務実績と採算性との相関関係も分析し、病院における採算改善を巡る諸見解の妥当性についても検証した。 加えて、平成24年度には、平成25年度以降に各種管理会計手法と各種業績との関係性を分析する上で必要不可欠となるDPC関連病院における管理会計実践の状況に関するアンケート調査も実施し、各病院の各種管理会計手法の整備状況に関するデータベースを構築した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要で述べたように、国立DPC関連病院及び公立DPC関連病院に関して、DPC影響評価報告や地方公営企業年鑑などから、各側面の質及び採算性・効率性に関する単年度分のデータを収集しデータベースを構築した。その上で、それぞれの病院群に対するクロスセクション分析により、質と採算性との相関関係を分析し、医療界の伝統的な二律背反観とは異なり、質と採算性(コスト)とは常に二律背反関係にあるのではないため、質を維持しつつ採算性を改善したりできる余地があること示すことができた。ただし、当初希望した研究費よりも削減されていることもあり、医療法人立病院の財務諸表データベースを新規に構築することが困難となった。もっとも、医療法人立については過年度の財務諸表データベースに基づく分析があるため、一定の限界はあるものの、今後この分析結果と国公立病院対象の分析結果との比較を試みるつもりである。また過去に実施した財務データを含むアンケート調査結果データを活用した公私間比較を試み、公私間比較という観点からの本研究の分析を代替した。 また研究実績の概要で述べたように、国立DPC関連病院群に関しては、手術実施度や平均在院日数といった質とは異なる業務実績と採算性との相関関係も分析しており、当初平成25年度に実施予定であった採算性と質以外の要因との関係性の分析の一部を平成24年度に実施した。この面からは、予定以上に進んでいるといえる。 さらに、平成25年度以降に各種管理会計手法と各種業績との関係性を分析する上で必要不可欠となる各病院の各種管理会計手法の整備状況に関するデータベースの一部(対応する業績データの分析用データベースはまだ未構築)も構築しており、この面でも予定以上に進んだ。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度には、データ量的に分析に耐えうる公立病院群を対象として、複数年度の各病院群の質及び効率採算性データを収集し、データベースを構築する。構築された複数年度の質及び効率採算性データを活用して、各病院での両業績の経年的変化を分析し、時系列分析による質と効率採算性との相互関係の検証を行う。その際、多様な質側面及び効率採算性側面それぞれを対象として分析し、質と効率採算性との相互関係が分析対象の質側面や効率採算性側面により異なるのかどうかも検証する。 より具体的には、再入院率等の質データの経年変化と医業利益率等の効率採算性データの経年変化を対応して分析し、質が高まった(低まった)病院では、効率採算性は低まった(高まった)のか、あるいは維持・向上(悪化)したのかを分析する。この分析の際には、診療報酬改定の影響を避けるために、改定年を跨がない2年度間で比較分析する。 またこうした質と効率採算性との相互関係は、各病院のスタート時点(平成24年度)の質の水準により変わるのかどうかも分析する。すなわち相対的に(あるいは特定の再入院率水準という絶対的に)質の低い病院の場合には、質の高まりとともに効率採算性も改善するが、相対的あるいは絶対的に質の高い病院の場合には、質の高まりとともに効率採算性は下がるというような、平成24年度の質の相対的あるいは絶対的な水準に依存して、両業績間の相互関係が変化するのかどうかも分析する。 加えて、平均在院日数などの質とは異なる業務実績(要因)と採算性との相関関係の分析も、平成24年度に構築した公立DPC関連病院のデータベースを活用して実施する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度も引き続きデータベースの構築をしつつ分析を行うため、構築のための謝金がかかる。また定量的な数字の背後になる定性的な状況も把握するため、各地の病院にインタビュー調査する必要があるため、旅費もかかる。
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