研究課題/領域番号 |
24530549
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
荒井 耕 一橋大学, 大学院商学研究科, 教授 (90336800)
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キーワード | 病院 / 医療 / 質 / 採算性 / コスト / 管理会計 / 経営管理 |
研究概要 |
平成24年度に引き続き、DPC影響評価報告や地方公営企業年鑑などから、各病院における質データと採算性データを収集し、質と採算性(コスト)との相互関係分析のための多年度データベースを構築した。診療報酬改定をはさまない二年度分のデータにより、各病院における質の変化分と採算性の変化分のデータセットを作成し、公立DPC関連病院群を対象に、質と採算性の変化分の相関関係の分析を実施した。 その結果、単年度データに基づく相関分析の結果と同様に、質と採算性(コスト)とは常に二律背反関係にあるのではなく、無相関だったり、むしろ質が高いほどコストも低いこともあることが判明した。このことは、質を落とすことなく原価低減させることや、原価水準を維持したまま質を向上させることができる余地があることを示唆しており、医療サービスの質とコストとの同時統合的な管理を促進する要因となる。 また、多年度データベースを活用して、公立DPC関連病院群及び国立DPC関連病院群のそれぞれを対象として、病床利用率や手術実施度などの業務実績と採算性との年度間変化分の相関関係も分析し、管理会計による採算改善の中間要因ともいえる業務実績と採算性との関係性についても検証した。 さらに、平成24年度に実施したDPC関連病院における管理会計実践の状況に関するアンケート調査の結果を整理し考察を加えるとともに、管理会計と業績との関係性分析の前段階として、開設主体や規模による管理会計実践の違いや、管理会計手法間の実践状況の関連性を明らかにした。また管理会計実践について回答した病院に関する財務及び質データの統合作業を進め、平成26年度における管理会計と採算性及び質との関係性分析のためのデータベースを構築した。 加えて、平成27年度以降に、特に予算管理実務と各種業績との関係性を分析するために、医療法人を対象に予算管理に関するアンケート調査も実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要で述べたように、DPC影響評価報告や地方公営企業年鑑などから、各側面の質及び採算性・効率性に関する二年度分のデータを収集しデータベースを構築した。その上で、二年度間の質の変化分と採算性の変化分との相関関係を分析し、医療界の伝統的な二律背反観とは異なり、質と採算性(コスト)とは常に二律背反関係にあるのではないため、質を維持しつつ採算性を改善できる余地があること示すことができた。 また研究実績の概要で述べたように、公立DPC関連病院群及び国立DPC関連病院群それぞれを対象として、病床利用率など質とは異なる業務実績の変化分と採算性の変化分との相関関係も分析でき、採算性と質以外の要因との関係性の分析も予定どおり実施できた。 さらに、平成26年度に各種管理会計手法と各種業績との関係性を分析する上で必要な各病院の各種管理会計手法の整備状況データと対応する業績データの分析用データベースも、ほぼ予定通り構築できている。 加えて、平成27年度以降に、管理会計手法の中でも特に予算管理実務の詳細と各種業績との関係性を分析しようと考えているが、その実施に必要な各病院の予算管理実務に関するデータの収集もしており、この面では予定以上に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度には、平成24年度に実施したDPC関連病院における管理会計実践状況に関するアンケート調査データと、対応する平成24年度の質及び財務データとを統合したデータベース(平成25年度にほぼ構築済み)を基に、各種管理会計手法の実施状況の有無と採算性及び質との関係性について分析する。その際には、管理会計と採算性との中間要因であると思われる病床利用率などとの関係も分析に含めてみたいと考えている。 また平成25年度に実施した、病院運営医療法人を対象とした予算管理実践に関するアンケート調査データの整理、結果考察を進めるとともに、予算管理の諸実践の間の関係性に関する分析もする。同時に、平成27年度に、予算管理実践と採算性との関係性の分析ができるように、アンケート回答法人の財務データの収集を試み、分析用データベースの構築を図る。 さらに、平成25年度実施の予算管理実践に関する調査は医療法人に限定されたもの(ただし急性期・回復期・慢性期の各領域の病院が含まれる)であったため、平成26年度には、多様な開設主体からなる急性期病院群であるDPC関連病院を対象として、予算管理実践に関するアンケート調査を実施し、より多様な開設主体を対象とした予算管理実践と病院業績(採算性及び質)との将来的な関係性分析のためのデータの整備を進める。 加えて、定量的な分析では十分明らかにできない定性的な要素もしっかりと把握するために、予算管理実践を中心に、インタビュー調査も実施していく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度から平成26年度に繰り越される額は4,725円である。 これは、平成25年度に若干の消耗品購入額が残ったために生じたものである。 平成26年度に消耗品の費用として活用する。
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