本年度は,引き続き産業クラスターの実態,特に食料産業クラスターから発展的に派生した6次産業化の実態調査に取りかかるとともに,食料産業クラスター政策の問題点について検証した。また,産業クラスターにおけるイノベーション創出のメカニズムについて明らかにした。 食料産業クラスターは,農水省の農商工連携事業の一環である。この延長線上に,6次産業化がある。6次産業化の『6次』とは,1次産業(農林水産業),2次産業(製造業),そして3次産業(販売業)を足し合わせた,あるいは掛け合わせたもの,という意味であり,農林水産業からのアウトプットを,加工し販売するまでのプロセスを一体化し,構造化することを目的としている。これは,産業クラスターでのイノベーションを具体的に事業化する取り組みであり,広義においては食料産業クラスターの一形態と位置づけることができる。本年度は,その取り組みの例として,鳥取県のケースを取り上げた。ここでは,農水省の出先機関である鳥取地域センター,事業者のマッチングや事業の促進をサポートする鳥取サポートセンター,そして鳥取県が,タッグを組んで6次産業の事業化に取り組んでいる。その成果の一例として,高付加価値の商品をニッチな市場で販売している企業の例を取り上げた。 一方,政策としての食料産業クラスター事業はあまりうまくいかなかったという事実を踏まえ,どこに原因があったのかを検証した。その原因として,クラスターとしての戦略を持っている協議会が少なかったこと,補助金が手段ではなく目的となっていたこと,コーディネータがうまく機能しなかったこと,などを明らかにした。 産業クラスターにおけるイノベーション創出のメカニズムを解明するために,経営学で提唱されている「協働の窓」モデルを取り上げた。イノベーションを生むために「協働の窓」を開けるには,BSCが有用であることを明らかにした。
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