英国の監査報告書において監査人の重要性判断について記載されるようになったことから、この監査人の重要性判断に関するデータと関連するデータを収集しデータベース化した。監査報告書のデータから、財務諸表における重要な虚偽表示の判断の尺度となる重要性基準値の算定の基礎となる指標の選択および割合の設定は、非常に多様であることが明らかとなった。一般的と言われる指標と割合の組合せである税引前当期純利益の5%という組合せは、今回の調査においては1割に過ぎず、むしろ税引前利益を何らかの形で修正したものが多数であったが、修正方法は企業によって多様であった。このようなデータが公表されたのは英国だけであるが、現在の監査事務所は世界的ネットワークの下で共通のマニュアルや品質管理システムによって行われているので、わが国における監査人の重要性判断の現状に強い示唆を与えるものと言える。 今回は英国のデータの分析だけでなく、わが国の実務家への聞き取り調査を行い、わが国における実務との関連性がある程度、裏付けられた。 制度としての財務諸表監査は、監査人ならびに被監査会社を超えた均質性が求められると同時に、被監査会社の状況に応じた職業的専門家としての判断も求められ、その微妙なバランスの上に成り立っている制度であると言える。今回の研究結果からは、均質性よりはむしろ多様性の方が示される結果となった。 今後は、このような多様な重要性判断を所与として、財務諸表監査の均質性をどのように担保しているのか、という点に関する研究を行う。
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