本年度は、分離型財務報告モデルに関する先行研究のレビューを行うとともに、事象サイクルモデルを用いて新しい財務報告書の情報と伝統的財務諸表の情報との関係づけを行った。その結果、分離型財務報告モデルには貸借対照表のコラムを拡張しようとするもの、損益計算書のコラムを拡張しようとするもの、貸借対照表と損益計算書の両方のコラムを拡張しようとするもの、ナラティブな財務報告書を指向するものの4つ系統があることが分かった。 また、一般にストックの表としてみなされる貸借対照表は、現金サイクル・投資サイクル・財務サイクル・稼得サイクル・分配サイクルの5つのサイクルのうち、現金サイクル・投資サイクル・財務サイクル・分配サイクルの4つの事象間の関係性がまだ完結していない事象を集めた表としてみなされる、という見解を示すとともに、損益計算書・キャッシュフロー計算書・株主資本等変動計算書の3つのフロー計算書は、それぞれ、稼得サイクル・現金サイクル・財務サイクル/分配サイクルを構成する事象を収容するための表として位置づけられる、という見解を得た。 さらに、公正価値情報を投資サイクルおよび財務サイクルに係るリスク情報として分析し、キャッシュフロー情報と別個に報告する理論的枠組みについて検討を行った。その結果、リスク情報などの予測的データはキャッシュフローと異なり貨幣数値によって表わすことが困難であるが、伝統的財務諸表とは別個の報告媒体を使用することにより、多様な方法で記述・開示することが可能であることを見出した。 上記の研究成果については、Professor G. H. Sorterと共同論文を作成し、アメリカ会計学会で報告を行った。
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