前年まではCVP分析にリアルオプション法を応用する基本的な考え方を定式化したが、最終年度は、利益計画法としてのCVP分析を企業外部からの株式価値評価モデルである残余利益にモデルに拡張して検討した。研究結果は日本管理会計学会および日本会計研究学会報告した。これらの研究では、残余利益評価モデルを動学的確率モデルとしてリアルオプションモデルに拡張した上で、その予測精度を、わが国上場企業のアーカイバルデータによる回帰分析、あるいは特定の企業データに基づくモンテカルロ・シミュレーションによって検証した。 前者では、リアルオプションモデルとして拡張された残余利益モデルによって、企業の収益性と株価(株価収益率)との間に非線形性があることが確認された。すなわち、企業の収益性が高くなるほど、株価の上昇率は大きくなるという非線形性が検証された。これは残余利益モデルをベースとしたOhlson等の線形情報動学モデルにおける線形性とは異なる知見である。 また同じくリアルオプションモデルによって、インターネットビジネスを展開する企業の会計データをもとにモンテカルロ・シミュレーションを実行した結果、残余利益モデルそのものよりも、リアルオプションモデルに拡張された残余利益モデルの方が、株価の説明力が高いことが判明した。インターネット企業を取り上げたのは、同企業が売上高(マーケット)ベースで急成長を見せる一方、負債による資金調達に起因する大きなリスクに晒されるという、資金の運用面と調達面の両面での大きな不確実性に注目したからである。 本研究の成果を要約すれば、以下の2点のとおりである。(1)線形の残余利益モデルが、非線形のリアルオプションモデルに拡張できることを理論的に示したこと。(2)このリアルオプションモデルによる株式価値評価の予測精度を、数値実験ではく実在の企業の会計データによって検証したこと。
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